「知能指数」という言葉を耳にしたことはありますか?どちらかというと「IQ」という言葉の方が馴染みがあるかもしれません。
知能検査によって測られる知能指数(IQ:Intelligence Quotient)は、全般的な「頭の良さ」を示すものではなく、あくまで知能の一つの側面を示す数値になります。
今回は知能指数(IQ)の正しい理解、知能指数(IQ)の検査方法や知能指数を測定することで分かることなどをご紹介します。
知能指数(IQ)とは?
知能指数(IQ)とは、知能のいくつかの側面を測定する検査の結果を表す数値のことを指します。
知能のおおまかな判断基準とされると同時に、知的障害(知的発達症)などの診断や支援に利用されることもあります。
そもそも知能とは何か?ということにはいろいろな考え方がありますが、知識量や読み書き計算の力だけではなく、記憶や問題解決、見たり聞いたりする力など幅広い能力の集合だといわれています。
その知能の一部を分かりやすく数値化したものを知能指数(IQ)と言い、知能検査と呼ばれる測定方法によって検査します。用いる検査によって表しているIQの意味あいが変わってきます。
知能指数(IQ)の平均や目安はある?
知能指数(IQ)は現在、偏差知能指数(DIQ)と呼ばれるもので表されることが多くなっています。
偏差知能指数は、統計的な処理をおこなうことで、同年齢の中で平均に当たる数値が100、約7割の人がプラスマイナス15の間に収まるようになっています。
偏差知能指数が70未満の場合、同年齢集団の下位2.3%の範囲にあたるため、知的な機能の面で困りが生じる可能性があるということで、「知的障害」の一つの目安にされることがあります。
ただし、あくまで知能の一側面のため、診断などに際しては、合わせて日常生活や社会生活への適応の度合い(適応機能)も併せて検討されます。
知能指数(IQ)を測定することでわかること
知能指数(IQ)を測定することでなにが分かるのか気になる方も多いのではないでしょうか?
知能指数(IQ)を調べる目的としては、大きく分けて下記3つが挙げられます。
1.適切な学習指導や支援を受けるためのヒントを知る
知能指数(IQ)を調べることで、「できること」「得意なこと」と「できないこと」「苦手なこと」を確認することができ、学習上や生活上のつまづきの背景を考察したり、どのような支援をおこなうのが有効かを検討する際の材料になります。
2.疾患や障害の有無を鑑別するヒントを得る
知能発達水準や認知能力の特徴を知ることで、疾患や障害の有無を判別し診断名をつける際の参考情報になります。
3.知的機能の遅れがあるかどうかを知る
知能指数を調べることで、平均値と比較した際の状態を知ることができます。
知能指数(IQ)がいくつかということは、療育手帳を取得する際や、特別支援学校で教育を受けるかどうかを判断する時の材料の一つとして使われています。
ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)と知的障害(知的発達症)が合併していないか、認知特性の偏りがないかを調べる時や、などにも、知能指数(IQ)が用いられます。
同年齢の集団と比較する時にも知能指数(IQ)は役立ちますし、同じ個人を対象として検査方法や時期が変化することで、知能指数(IQ)にどのような変化があるのかということも参考になります。
一方で、知能指数(IQ)だけで疾患や障害の有無を判断することはありません。
医師が発達障害などの診断をおこなう時には、知能指数(IQ)だけでなく直接の問診内容や行動観察、知能検査の態度やエラーのパターン、解き方の特徴、知能検査以外の検査の結果などを総合的に見る必要があります。
あくまでも知能指数(IQ)は、個人の特性や困りごとを把握するためのヒントの一つと捉えるといいでしょう。
知能指数(IQ)が低いことによる困りごととは?
知能指数のスコアが低い場合などには、下記のような困りごとにつながってくる場合があります。
- 学習能力を身につけることが難しい
- 柔軟に考え、物事に対処することが難しい
- 円滑なコミュニケーションを取ることが難しい
- 行動のコントロールをおこなうことが難しい
- 食事や身支度など、身の回りのことの自立に時間がかかる
ただし、全員が同じ困りごとがあるとは限りません。
あくまでも個人個人が抱えている困りごとは異なるため、目安とされることの多い知能指数(IQ)70プラスマイナス5以下(75-65以下)であったからと言って、「こういうことに困っているに違いない、こういうことはできない」と判断するのではなく、その子ども自身に向き合うことが大切です。
知能指数(IQ)の検査方法は?
知能指数(IQ)は知能検査によって検査します。
知能検査とは?
知能検査とは、主に物事の理解、知識、課題を解決する力といった、認知能力を測定するための心理検査の一つです。
認知発達の水準を評価し、その人の得意分野、不得意分野を分析することで、発達支援や学習指導の方向性を検討するなどの目的で利用されます。
知能検査の種類は?
知能検査には、言語を用いる検査と、言語ではなく数字や図形などを用いる検査があります。またそのどちらも取り入れた検査もあります。
本記事では、「ウェクスラー式知能検査」、「田中ビネー知能検査」の2つの検査方法をご紹介します。
ウェクスラー式知能検査
ウェクスラー式知能検査は世界各地で使用されており、日本においても最もよく使われる知能検査の1つです。日本では2021年にWISC-Ⅴが発売されましたが、本記事では、WISC-Ⅳを例に説明します。
受検者の年齢に応じて3つに分けられます。
- 幼児用のWPPSI(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence、通称ウィプシ)
- 児童版のWISC(Wechsler Intelligence Scale for Children、通称ウィスク)
- 成人用のWAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale、通称ウェイス)
いずれも、専門家(公認心理師や臨床心理士など)が受検者と1対1でおこなう個別式の検査で、例えば児童版のWISC-Ⅳでは10個の基本検査と5つの補助検査で構成されています。
10個の基本検査から全検査IQ(IQ100を同年齢集団の平均としたとき、知的発達の水準が、どの程度であるかを示す)と4つの指標得点(言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度)が算出され、それらの合計得点から子どもの知的発達の様相をより多面的に把握することが期待できます。
田中ビネー知能検査
本記事では田中ビネー知能検査Ⅴを例に説明します。
田中ビネー知能検査は、子どもの知的側面の発達状態を客観的に捉えるための検査で、検査課題に日本人の文化やパーソナリティ特性、生活様式に即した内容が採用されているのが特徴です。
この特徴によって、検査への抵抗を軽減するだけでなく、本来の子どもの能力を発揮させやすい要件を備えた構成となっています。
例えば受検者が2歳から13歳の場合の検査では、検査結果が精神年齢から知能指数(IQ)が算出されます。
対象者の生活年齢や個々の発達状況に応じて検査内容は変動するため、同じ年齢の対象者が受ける場合でも内容は異なります。
子どもの知能指数(IQ)に関する相談先や受けられる支援は?
知能指数(IQ)や知能検査については、さまざまな専門機関で相談することが可能です。
ただし、知能指数(IQ)やそのほかの要素を総合的に見て、発達障害や知的障害(知的発達症)かどうかを診断することは医師にしかできません。
発達障害などの診断がないが、子どもの知能指数などについて相談したいという場合は、以下でご紹介する場所に問い合わせてみるといいでしょう。
保健センター
保健センターは地域住民に対して総合的な保健サービスを提供する施設で、地域保健法に基づいて設置されています。
保健センターがおこなうサービスの中には母子保健事業もあり、子育てに関する相談も受け付けています。
都道府県や市区町村ごとに保健センターの一覧が掲載されていますので、気になる方はそちらを参照ください。
子育て支援センター
子育て支援センターは、主に市区町村ごとに運営されていて、保護者や子ども同士が交流することができる場所です。子育てに関する相談も受け付けており、子育てに関する情報提供や援助などをうけることもできます。
都道府県や市区町村ごとに子育て支援センターの場所が載っていますので気になる方はご参照ください。例として東京都のページを掲載します。
児童相談所
児童相談所は、原則18歳未満の子どもに関する相談などを、子ども本人・家族・学校の先生などから受け付けている児童福祉法に基づいて設置されている場所です。
発達の遅れが気になるなど、さまざまな子どもに関する相談に対し、児童福祉司・児童心理司・医師・保健師などの専門的なスタッフが助言やほかの機関の紹介などをおこなっています。
知能指数(IQ)に応じて受けられる支援は?
知能指数(IQ)だけでは疾患や障害の確定診断をすることはできません。
しかし、知能検査の結果は疾患・障害の識別や、治療の効果測定、障害のリスク予測などの指標の一つとして活用されます。
例えば知能指数(IQ)の結果を使用し、知的障害(知的発達症)という診断が下りた場合には「療育手帳」を取得し、必要な支援を受けることができる場合があります。
市区町村によって支援内容は異なりますが、入園・入学時に合理的配慮を受けることができたり、児童発達支援や放課後等デイサービスなどの利用が可能になる場合もあります(通所支援など療育手帳が必須でないケースもあります)。
他にも知能指数(IQ)の結果が特別支援学校への入学判断をおこなう際、参考として使用されることもあります。
知能指数(IQ)についてまとめ
今回は知能指数(IQ)についてご紹介しました。
普段の生活の中でも度々耳にする「IQ」という言葉ですが、一般的にイメージされるようないわゆる「頭がいい・悪い」を示すための数値ではありません。
発達に気になる点がある場合や、子どもの得意・不得意などの発達のバランスを客観的に把握したい場合、知能検査によって知能指数(IQ)を把握することはある程度参考になるでしょう。
ただし知能指数(IQ)は、用いる検査や検査時期による違いや、検査時の様子などによっても影響を受ける面もありますし、あくまでその検査では知的能力のある側面を図っているにすぎないので、その数値だけで判断しないことも重要です。知能指数(IQ)に一喜一憂することなく、あくまでもより適切な支援に繋げるための材料の一つとして捉えるようにしましょう。
LITALICOジュニアでも心理検査(一般的な発達検査または知能検査)をおこなっています。受けていただいた心理検査の結果を手がかりとして、子どもの得意なことや課題となることなどを導き出し、適切な関わり方や、より伸ばすことができるといいポイントなどを具体的にご提案します。
ご興味がある方はまずは無料の相談からもできますので、お気軽にお問い合わせください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。