軽度知的障害とは、知的障害の基準のうち「軽度」に該当する方のことを指す言葉です。
日常会話や動作がこなせることから周囲から気づかれにくい傾向にありますが、「学校の勉強が遅れがち」「複数でのコミュニケーションが苦手」「臨機応変な対応が難しい」など、さまざまな面で困難を感じている場合もあります。
自閉スペクトラム症との併存や、うつ病や不安障害などの二次障害につながることもあるため、早めに気づいて支援していくことが大切です。
この記事では軽度知的障害の特徴や診断基準、よくある困りごとへの対応、相談できる支援機関を紹介します。
軽度知的障害とは?
軽度知的障害とは、知的障害の症状が「軽度」に分類される場合を指す言葉です。「軽度知的障害」という診断名があるわけではなく、知的障害の中での分類の一つとして使われます。
軽度知的障害のある方は、日常生活や言葉によるコミュニケーションなどの普段の様子からは気づかれにくい傾向があります。
軽度とつくからといって困りごとが少ないわけではなく、抽象的な内容の理解や臨機応変な対応が難しい、学年が上がっていくと学習面でのつまずきが出てくるなど日常生活や学校生活で困難を抱えることもあります。
また、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害との併存が多いことや、うつ病といった精神障害を発症する二次障害が起こる可能性も指摘されています。
そのため周囲が早期に気づき、本人に合った学習方法や環境を整えていくことが、軽度知的障害のある子どもが将来社会生活をおくる上でも大事です。
知的障害とは
知的障害とは厚生労働省の定義では、
「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」
とされています。
この定義のように知的障害は知能指数などの知的機能だけで判断されるわけではなく、どのくらい日常生活で困ることがあるのかといったことも含めて判断されます。
また、知的障害は医学的には『DSM-5』(精神疾患の診断・統計マニュアル)によると「知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)」という診断名で呼ばれています。
行政や福祉の領域では「知的障害」表記が使用される場合が多いことや、知的障害者福祉法といった法律もあるため、この記事では「知的障害」という表記で統一します。
知的障害の種類(分類)について
知的障害は「知的機能の障害」と「日常生活能力」の基準によって、「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4つに分類されます。
知的機能の障害は、知能検査の結果としてIQが基準となり、日常生活能力は自分で身の回りのことができるか、他の人と意思疎通ができるかといったことから判断されます。
知能水準がI~IVのいずれに該当するかを判断するとともに、日常生活能力水準が a ~ d のいずれに該当するかを判断して、判定をおこなっています。その仕組みは以下のとおりです。
*知能水準の区分
I ・・・ おおむね20以下
II ・・・ おおむね21~35
III ・・・ おおむね36~50
IV ・・・ おおむね51~70
日常生活能力水準の「a~d」は、aに近いほど自立した生活をおくることへの困難度が高く、dに近いほど自立した生活が容易であることを示しています。
程度判定には日常生活能力が優先されるため、IQがⅢ「36〜50」で日常生活能力がdの場合は「軽度」と判定されます。
また、保健面・行動面についても、「保健面・行動面の判断」によって、それぞれの程度が判定され、程度判定に付記されます。
軽度知的障害の特徴は?
ここでは軽度知的障害のある子どもの特徴について紹介します。
軽度知的障害のある子どもは言葉の遅れ、学習のつまずきがあると言われています。幼少期に気づかれにくく、学齢期以降に気づかれることが多い傾向があります。
乳幼児の特徴
軽度知的障害のある子どもの特徴として言葉の遅れがあり、例えば年齢ごとの発達の目安と比べて話す言葉の数が少ない、または理解している言葉が少ないといったことが挙げられます。
ただし、言葉の発達は個人差が大きくそれだけで判断することはできません。1歳半検診、3歳児検診などで言葉の検査がありますので、気になる場合はそのときに相談してみてもいいでしょう。
学齢期の特徴
軽度知的障害のある子どもは学校の勉強で困難を感じるといった特徴があります。
小学校に入学してから、授業のスピードに理解が追いついていない、読み書き計算といった学習に遅れがあるといったことがあります。
他にも集団での会話についていくのが難しい、抽象的な説明の理解が難しい、話すときは単語を羅列するといった言葉を使ったコミュニケーションに遅れが見られることもあります。
また、日常生活ではお釣りの計算などの金銭管理が苦手といった特徴が見られることもあります。
軽度知的障害と似た障害として、学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)と呼ばれる障害があります。学習障害のある子どもの場合は、特定の学習にだけ困難さが見られ、軽度知的障害のある子どもの場合は、全体的な学習に遅れが見られるという特徴があります。
学習障害は特定の学習にのみ困難が生じる障害のことで、「識字障害」「書字障害」「算数障害」といった種類があります。
こういった特徴だけで軽度知的障害と判断することはできないため、不安がある方は後ほど紹介する支援機関や医療機関に相談をしてみるといいでしょう。
軽度知的障害の診断方法は?
ここでは軽度知的障害の診断方法を紹介します。
軽度知的障害の診断は専門機関でおこなわれ、問診や知能検査を通して最終的に診断がくだされます。
診断可能な機関を探すのが難しい場合などは、まず児童相談所や保健センターなどに相談してみるといいでしょう。相談先については後ほど詳しく紹介します。
問診
問診では、生まれてから診察を受けるまでの言葉の発達、家庭や幼稚園、保育園、学校での様子が聞かれるほか、1歳半健診や3歳児健診での様子などもヒアリングされることがあります。ほかにも保護者から見て気になる点などを聞かれることがあるため、事前にメモを用意しておくといいでしょう。
また、子どもを別の場所で遊ばせて、その様子を観察しながら保護者へヒアリングする「行動観察」をおこなうこともあります。
知能検査
知能検査では「田中ビネー知能検査 V(ファイブ)」「新版K式発達検査」「ウェクスラー式知能検査」などの方法が用いられることが多く、子どもの年齢などによって使い分けられます。
田中ビネー知能検査 V(ファイブ)
2歳から成人までを検査することができ、子どもが興味を持ちやすい検査道具を用いるなどの特徴があります。
新版K式発達検査
「姿勢・運動」(P-M)、「認知・適応」(C-A)、「言語・社会」(L-S)の3領域について評価をおこなっていきます。年齢における一般的と考えられる行動や反応と、検査を受ける子どもの行動や反応が一致しているかで検査します。
ウェクスラー式知能検査
全体的なIQを評価するだけでなく、個人の強みや苦手も含めて総合的に判断する検査方法です。年齢によってさらに3つの種類に分かれています。
- WPPSI:幼児(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月)
- WISC:学生児(5歳から16歳11ヶ月)
- WAIS:成人(16歳〜)
ほかにも発達検査や、行動や情緒の傾向を測定する検査をおこなったうえで、総合的に判断されます。
軽度知的障害のある子どもの困りごとと対処法
ここでは軽度知的障害のある子どもに見られる困りごとと、その対処法を紹介します。
軽度知的障害のある子どもは、その特性からあわない環境や対人関係のストレスなどによって精神面での二次障害が生じてしまう可能性もあります。
そのため、本人が理解しやすい方法で学習をすすめるなど、一人ひとりに合った対処をしていくことで困難を軽減させていくことが大事です。
絵や写真などを使って覚える
軽度知的障害のある子どもは、物事を記憶しておける量が少ない傾向があります。
複数のことを伝えられたときに一部のことのみ覚えていたり、短い時間で忘れてしまうといったことがあります。
口頭で伝えても覚えるのが難しい場合は、絵や写真を使うなどその子が覚えやすい手段を使っていく方法があります。
また、一度で覚えられなくても繰り返すことで記憶に定着しやすくなることもあるため、絵や写真と併用して覚えることを促していくといいでしょう。
具体的に伝える
軽度知的障害のある子どもは、抽象的な概念の理解が難しいことがあります。
大人から「もっとがんばって」と言われても「もっと」がどのくらいなのか、「がんばる」は何をしたらいいのかといったことがなかなかイメージしづらい場合があります。
そこで、してほしいことがあるときは「今から国語の宿題を3問解こうね」といったように、具体的に伝えるようにすると取り組みやすくなることがあります。
スモールステップに分けて説明する
軽度知的障害のある子どもは、一度にすべてのことを伝えられると理解が追いつかないことがあります。
そういった場合は手順を一つひとつスモールステップに分解して説明していく方法があります。計算問題ではすべての式を一度に見せるのではなく、計算する順番に式を見せて解いていくなどのやり方があります。
「3×2+5」という計算式があった場合は、まず「3×2」以外を隠して計算してもらい、その結果の「6」をメモしたら「3×2」を隠し、最終的に「6+5」という計算ができるようにする、といった方法もあります。
一つずつの項目で理解できたか確認し、つまずく箇所があったら繰り返し説明することや、説明の仕方を変えるなど工夫していきましょう。
アプリなどのツールを使用する
記憶や理解のサポートができるアプリなどのツールを活用することも、軽度知的障害のある子どもの困りごとを軽減する方法の一つです。
一度に手順を理解することが難しい軽度知的障害のある子どもはTODOリストを使う、忘れ物が多い場合はリマインダーアプリを使う、時間管理が難しい子どもはアラームアプリを使うなど、困りごとに合わせたツールを活用していきましょう。
合理的配慮を相談する
軽度知的障害がある影響で授業に遅れがあるなど学校での困りごとがあるときは、配慮をお願いする方法もあります。
担任やスクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーといった方々と相談して、軽度知的障害の子どもが学びやすくなる配慮を実施していくといいでしょう。
例えば「先生から指示は一つずつしてもらう」「集中しやすい席の配置にしてもらう」「プリントにふりがなを振ってもらう」「テストは別室で受けさせてもらう」などが配慮の例としてあります。
ほかにも学校内でアプリやツールの使用を認めてもらうといった配慮もあります。
軽度知的障害の子どもは自閉スペクトラム症などの発達障害が併存していることもありますので、ここであげた例だけでなくその子どもに合った対策をおこなっていくことが必要です。
軽度知的障害のある子どもが受けられる支援や相談先
軽度知的障害のある子どもへの支援や相談先について紹介します。ここでは学校教育とそれ以外の支援機関に分けて説明します。
学校教育
- 特別支援学級
- 特別支援学校
支援機関
- 保健センター
- 子育て支援センター
- 児童相談所児童発達支援センター
特別支援学級
特別支援学級とは、軽度知的障害などの障害のある生徒を対象とした少人数の学級のことです。
小学校・中学校に設置されていて、学習や生活での困難を克服するための指導をおこなっています。自立活動をおこなうことや各生徒ごとに個別の指導計画を作成することなどの特徴があります。
特別支援学校
特別支援学校とは軽度知的障害など障害のある生徒が通う学校のことです。特別支援学級は小中学校の中に「学級」としてあるのと異なり、特別支援学校は障害のある生徒を対象とした「学校」となります。
特別支援学校も生徒個別の指導計画があるなど、軽度知的障害など障害のある子どもが学びやすくなっています。
保健センター
保健センターは地域の住民の保険や衛生を支える行政機関で、市町村を中心に設置されています。
軽度知的障害をはじめとした子どもに関する相談に対して、子どもの状態にあわせてアドバイスや医療機関・支援機関の紹介もしてくれます。窓口での相談受付のほか、電話での相談、家庭訪問をして相談を受けつけている場合もあります。
子ども家庭支援センター
子ども家庭支援センターは子ども、家庭、地域住民などの相談に応じてアドバイスや指導をおこなっています。
軽度知的障害のある子どもについての相談に対しても、児童相談所、児童福祉施設など、関係する機関との連絡調整をおこないながら対応をしていきます。
児童相談所
児童相談所は、18歳未満の子どもに関する相談を受け付けている行政機関です。軽度知的障害も含めた、子育ての相談をすることができます。
子ども本人・家族・学校の先生・地域の方々といったさまざまな方からの相談を受け付けていて、児童福祉司・児童心理司・医師などの専門スタッフが相談に適したアドバイスなどの対応をしています。
児童発達支援センター
児童発達支援センターは軽度知的障害などの障害のある子どもに対して、日常生活や集団生活への適応を目的としたプログラムの提供などをおこなっています。
児童発達支援センターには、福祉サービスをおこなう「福祉型」と、福祉サービスにあわせて治療をおこなう「医療型」があります。
福祉型では就学前の子どもは児童発達支援、小学校入学から18歳までの子どもは放課後等デイサービスが対象となり、利用するには自治体に申請をして「通所受給者証」の交付を受ける必要があります。
LITALICOジュニアでは児童発達支援事業所と放課後等デイサービスを各地で展開しています。
子どもの特性や興味関心にあわせてプログラムを提供しており、軽度知的障害のある子どもへの指導実績も豊富にあります。
通所受給者証がなくても通える学習塾形式の教室もありますので、子どもが「言葉に遅れがある」「学校の勉強についていけなくなった」といったお悩みがある方は是非一度ご相談ください。
軽度知的障害についてまとめ
軽度知的障害のある子どもは、日常の生活はこなせるが特性によって学習や対人関係で困りごとが生じている場合があります。
自閉スペクトラム症(ASD)などを併存していることもあり、困りごとは人によってさまざまで、環境や対人関係の悩みによってうつ病や不安障害などの二次障害が生じることもあります。
そのため周囲が早めに気づいて、軽度知的障害のある子どもに合った対策をしていくことが大事です。
軽度知的障害のある子どもの支援機関はたくさんあります。ご家庭だけで対応するのではなく、そういった支援機関も活用しながら子どもに合った環境を整えていきましょう。
知的障害について大人向けの記事はこちらでご紹介していますので、気になる方はご覧ください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。