発達障害のある方の場合、抑うつや不安障害などの精神疾患を発症しやすいと言われています。これらのような発達障害を起因とする精神疾患などを「二次障害」と呼ぶことがあります。
しかし「二次障害」という言葉は医学的な専門用語ではなく、発達障害の表れ方が人それぞれなように、「二次障害」の表れ方も個人差が大きく、特性や状況に合った対応が大切です。
今回は発達障害に伴って見られる二次障害の治療方法や対策・対処法、二次障害に関する相談先について解説します。
発達障害の二次障害とは?
そもそも発達障害とは、ADHD(注意欠如多動症)や、ASD(自閉スペクトラム症)、SLD(限局性学習症)など、生まれつきの脳機能の発達の偏りによる障害のことを指します。
発達障害の特性の表れ方には個人差がありますが、その中で特性に合った支援やサポートが受けられない、自分の特性に合わない環境の中で過ごさざるを得ないなど、強いストレスを感じる機会が多く発生すると、精神疾患を併発したり社会適応を困難にする問題行動を起こすようになったりします。
このような状態を発達障害の「二次障害」もしくは「二次的な問題」と呼ぶことがあります。
子どもの場合、発達障害の特性によって、学習の遅れや対人関係がうまくいかず、学校で孤立するなどの状況になり、抑うつや適応障害などの精神疾患、すなわち「二次障害」が引き起こされることがあります。
大人の場合、逆に抑うつなどの発症をきっかけに医療機関を受診したところ、その背景に発達障害があることが分かる場合もあります。
二次障害の原因は?
発達障害の二次障害は、家庭や学校などの環境と発達障害の特性のミスマッチによって困りごとが生じ、それらが蓄積することが原因と言われています。
発達障害は目に見えない障害であり、特性の表れ方も人それぞれ異なるため、周囲の人から理解されにくい障害です。また、発達障害という診断を受けておらず、自分自身でも特性を理解していないことも多くあります。
例えば「忘れ物が多い」「集中力が続かない」「周囲の意図を汲み取ってコミュニケーションを取ることが苦手」というADHD(注意欠如多動症)の特性が見られる場合、周囲の理解がなければ単なる不注意として見なされ、叱られたり否定的な対応をされたりします。
自分でも「なぜ自分はできないのか」と自分自身を責め、自尊心が低下していきます。
このようなストレス負荷が高い状態が続くことで、気分の落ち込みや不安に伴う精神疾患の発症、引きこもり・不登校・暴力などの問題行動が「二次障害」として引き起こされるのです。
ただし、発達障害があるからといって必ずしも「二次障害」が起きるわけではありません。周囲の適切な理解や支援、また自分自身の工夫により、発達障害から起きる生きづらさを軽減し、二次障害を回避することもできます。
また二次障害を発症しても、周囲の環境やサポート体制が変化することで、二次障害の症状の表れ方が落ち着いてくることもあります。
発達障害の二次障害の種類
二次障害は大きく「内在化障害」と「外在化障害」の2種類に分けられます。
内在化障害
発達障害の特性も含め、自分自身に対するいらだちや精神的な葛藤が自分に向けて表現される症状のことを「内在化障害」と呼びます。
具体的には下記のような症状が挙げられます。
- 不安障害
- 抑うつ
- 強迫性障害
- 対人恐怖
- 心身症
- 依存症
- 引きこもり
最近では、小学生〜中学生くらいの学齢期の時期に見られる子どものうつや引きこもりなどの背景にも、発達障害の存在が指摘されています。
外在化障害
自分自身に対するいらだちや精神的な葛藤が他者に向けられる形で表出する症状のことを「外在化障害」と呼びます。
具体的には下記のような症状が挙げられます。
- 暴力、暴言
- 家出
- 他者に対する敵意、攻撃性
- 反抗挑戦性障害
- 行為障害
- 感情不安定、自傷行為
- 非行などの反社会的行動
大人になってからこのような行動が見られるだけでなく、小学校低学年など比較的幼いうちからこのような行動が繰り返し見られる場合もあります。
これらの内在化と外在化の問題は密接に関わって表れることもあります。
発達障害の二次障害の治療方法
二次障害は発達障害によって引き起こされる後天的なものなので、症状に合わせて医療機関などで治療をおこなうことができる場合があります。
抑うつや不安障害など、精神疾患が二次障害として見られる場合、まずはその症状に対する治療を行います。
認知行動療法などの心理療法、家族に対する家族療法、薬を使った薬物療法などが必要に応じて医師の診断のもと行われます。
認知行動療法
認知(物事の受け止め方や考え方)や行動に働きかけ、こころを楽にする精神療法の一種を指します。
認知行動療法では、認知を通して、人間の感情・気分と行動の両方にアプローチし、いい循環を起こせるように働きかけ、医師との対話やホームワーク、インターネットプログラムなどを通して、認知や行動のパターンを変えていくことが目的です。
家族療法
二次障害の場合、家族の理解や協力が不可欠です。
発達障害がある本人とともに家族の相談にも医師が乗りながら、家族ぐるみで適切な対処方法を探り、症状や問題行動の改善を試みる療法です。
薬物療法
薬物療法では、薬を服用することで発達障害の症状を緩和することが期待されます。二次障害の一種である暴力などの外在化障害に対しても攻撃性をコントロールするために薬物治療が行われることもあります。
ただし、医療機関での診断・治療だけで二次障害全てを解決することは難しく、家庭や学校、職場など困りごとを抱える方の周囲の環境全体でサポートが必要です。
二次障害に対してだけではなく、発達障害そのものから生じる困りごとへの対処も有効です。
発達障害ですでにかかりつけ医・主治医がいる場合は、二次障害の治療についても併せて相談するといいでしょう。
発達障害の二次障害の対策や対処法は?
発達障害の二次障害は、日々のストレスや自分自身に対する否定的な思いが積み重なることによってあらわれます。二次障害という形であらわれるまでにも、子どもは傷つき、苦しい気持ちを抱えています。
そのような状態が長く続かないよう、二次障害を予防するためには周囲が発達障害に対して理解をすることが大切です。
また、二次障害が起きると元々持っていた困難さに加えて状況が悪化するため、問題がより複雑になります。
そのため発達障害のある方と接する中で、二次障害を「予防する」という観点は非常に重要です。
発達障害の二次障害の対策としてできること
できるだけ早い段階から、本人が過ごしやすい、もしくは困難さを感じにくいように環境を調整することによって、発達障害の二次障害を引き起こすリスクは軽減できると考えられています。
例えば、聴覚過敏がある場合には、学校で耳栓やイヤーマフの使用することを認めてもらう、視覚過敏のある場合には、外の景色が見えないようにカーテンをつけるなどといった方法があります。
このように、一人ひとりの状態や場面に合わせておこなわれる個別の対応のことを「合理的配慮」と呼びます。
学校でも負担が重すぎない範囲でおこなわれるものなので、担任の先生やスクールカウンセラーなどと相談し、どういった対応であれば実施できそうか相談してみるといいでしょう。
また、周囲の環境を整えるだけでなく、ストレスに柔軟に対処できる方法を幼少期から探っておくことで、成長してからも二次障害を引き起こしにくくすることが期待できます。
発達障害や二次障害に関する相談先
発達障害と二次障害が併発している場合、どちらが主な要因となって困りごとが発生しているのか切り分けることが難しい場合もあり、本人も周囲の人も困難さをうまく説明できず悩んでいることも少なくありません。
早めに困難さに気づき、深刻な二次障害を引き起こさないためには、適切な機関への相談が重要となります。
相談先としては専門の医療機関以外にも、以下のような支援機関が挙げられます。
精神保健福祉センター
精神保健福祉法にもとづき各都道府県・政令指定都市に設置されている支援機関で、心の病気に関する困りごとの相談に対するアドバイス、医療機関や支援機関についての情報提供、精神科デイケアなどのプログラムを行っています。
発達障害者支援センター
発達障害のある人の日常生活をサポートする機関で、発達障害の診断を受けている大人や子ども、その家族や、発達障害の可能性がある、いわゆるグレーゾーンの人も対象に支援も行っています。
窓口は各都道府県や政令指定都市の自治体ですが、そこから委託された事業所でも相談を受け付けています。
児童相談所
子どもに関するあらゆる問題の解決のために、児童福祉法に基づいてすべての都道府県と政令指定都市に設置助言や設置された専門的な相談機関です。
児童福祉司(ソーシャルワーカー)、児童心理司、医師などの専門家に18歳未満の子どものあらゆる問題について相談し、治療の補助、さまざまな手当や制度利用の案内など、支援を受けることができます。
子育て支援センター
主に乳幼児の子どもと子どもを持つ親が交流を深める場です。
市区町村ごとに、公共施設や保育所、児童館などの地域の身近な場所に設置されており、子育てなどに関する相談、援助も実施しています。
育児や発達に関する発達相談も受け付けており、相談・診察の状態によっては近隣の医療機関を紹介してもらうこともあるそうです。
このように発達障害や二次障害について相談できる窓口はさまざまあります。
いきなり医療機関で診断をもらうために相談するのはハードルが高い、と感じる時には、このような機関を利用してみるのもいいでしょう。
発達障害の二次障害についてまとめ
発達障害は特性の表れ方に個人差が大きく、目に見えない障害であることから、なかなか周囲から理解を得にくい障害です。
そのため、ストレスや困難さを誰にも言えない状態が長く続き、「二次障害」が引き起こされることも少なくありません。「二次障害」を予防し、発達障害がある人がその人らしく生きられるようにするためには、周囲の理解と環境調整を欠かすことはできません。
まずはその人自身の発達障害の特性や困りごとを周囲が理解すること、そして適切な支援を行っていくことが必要です。
二次障害として表れている症状は治療することができる場合も多くあります。自己判断で「何をしてもだめだ」「仕方がない」とあきらめず、早期に支援が開始できるよう適切な機関で相談を行ってみてください。
児童発達支援・放課後等デイサービスを運営するLITALICOジュニアでは、発達障害の子どもの支援もおこなっています。
得意・不得意を見つけ、一人ひとりに合わせた指導を提供し、学校や日常生活で自分らしく過ごせるようにサポートしています。
「子どもが二次障害を起こしているけれど、どうしたらいいかわからない」「子どもが発達障害かもしれない」「二次障害を起こさないか心配」といったお悩みがある方はぜひ一度ご相談ください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。