重度知的障害とは?特徴や原因、受けられる支援などを解説します

重度知的障害とは、「軽度」「中度」「重度」「最重度」と4種類ある知的障害の種類(症状の程度)のうちの一つです。

 

症状のあらわれ方には個人差があるため一概には言えませんが、重度知的障害では言語や数、時間、金銭などの概念を理解することが難しく、日常生活のさまざまな行動にも援助を必要とすることが多いとされます。

 

この記事では、重度知的障害の特徴や原因、診断基準、利用できる相談先や支援機関について解説します。

重度知的障害とは?

重度知的障害とは?

重度知的障害とは、知的障害の種類(症状の程度)のうちの一つです。

 

知的障害にはさまざまな呼び名があり、例えばアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)の日本語版では知的障害を「知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)」と呼んでいますが、福祉や教育、法律の分野では「知的障害」と呼ばれています。

 

この記事では「知的障害」という表記を用いて説明していきます。

知的障害とは

知的障害には統一された定義がなく、さまざまな機関がそれぞれの定義をおこなっています。

 

医学的には、DSM-5のほかにも世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)が定義を提示しています。

ほかにも、文部科学省や厚生労働省が定義を定めています。

 

これらの定義に共通する要素は、以下の3つです。

  1. 知的機能の制約があり、知的能力が年齢の水準よりも遅れている状態
  2. 1のために、日常生活への適応に支障が生じている
  3. 1と2が、18歳までの時期である「発達期」に生じている

知的障害の種類(程度)

知的障害は、「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4つの程度に分類されます。

 

分類の基準も、機関により異なります。

例えば厚生労働省は、IQ(知能指数)の値と、「日常生活力水準」の両方を考慮して、以下のように分類しています。

 

知的障害の種類(程度)

 

画像出典:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査:調査の結果」

 

知的な能力には、認知・言語・記憶・情報処理能力・推論能力などがあります。

 

これに対して、日常生活力水準とは、適応能力のことで、身の回りのことや社会生活がどの程度自分でできるかといった適応能力の度合いをみるものです。

 

厚生労働省の程度判定では、IQ(知能指数)の値よりも日常生活能力の程度を優先して考慮されます。

重度知的障害の特徴

重度知的障害の特徴

知的障害は、その程度により症状のあらわれ方が大きく異なります。

 

知的障害が軽度である場合は、小学校に入学し、勉強における困難が明らかになるまで知的障害があることがわからない場合もありますが、重度知的障害では2歳ごろまでの間に運動や言語、対人コミュニケーションなどの面で遅れがみられ、診断がつく場合もあります。

 

個人差があるため一概には言えませんが、ここでは重度知的障害にみられることのある特徴を紹介します。

  • 言語や数、量、時間、金銭などの概念を理解することが難しく、広範囲にわたる支援を必要とする場合が多い

  • 単純な会話や身ぶりによるコミュニケーションを理解できる場合もあるが、共感やコミュニケーションなどに困難がある

  • 食事や身じたく、入浴や排泄など、日常生活のすべての行動に援助を必要とする

  • 集中することや衝動的な行動をおさえることが難しいため、学校での授業中に教室の外に出て行ってしまったりする

  • なんらかの疾患や身体障害が併存していることがあり、医療的な支援が必要となる場合がある

重度知的障害の原因

重度知的障害の原因

重度知的障害はさまざまな原因により生じ、複数の要因が関係している場合もあるとされます。また、原因が特定できないこともあります。

 

原因となりうる要素には、ダウン症やプラダー・ウィリ症候群などの染色体異常による先天的疾患、出産時のトラブルや出生後の事故などによる脳障害などが指摘されています。

また、環境要因が関係する場合もあるといわれています。

重度知的障害の診断について

重度知的障害の診断について

重度知的障害の診断は、医療機関でおこなわれます。しかし医療機関を受診する前に「まずは相談してみたい」という場合にも、利用できる機関があります。

診断

重度知的障害の診断は、診察や問診、知能検査などの結果を総合的に判断しておこなわれます。

 

診察では、身体的な特徴や運動機能、原因疾患の有無などを調べます。

問診では、医師が保護者に子どもが生まれてからの発達の様子などを聞きます。また、子どもの行動の特徴やコミュニケーションの様子などを観察する「行動観察」もおこなわれます。

 

知能検査は、2歳から成人まで検査できる「田中ビネー知能検査V」や、5歳から16歳まで検査できる「WISC-Ⅳ」など、子どもの年齢などによって使われる検査が異なります。

相談先

子どもの発達について気がかりなことがある場合は、以下の機関に相談することができます。

 

かかりつけの小児科

小児科は医療機関ですが、発達や育児について気がかりなことがあるときの身近な相談先でもあります。

受診の際に、子どもの様子で気になることなどを相談してみてください。

 

市町村保健センター

市町村保健センターには保健師や看護師などが配置されており、障害のある子どもに関する相談も受けつけています。

市町村保健センターでおこなわれる乳幼児検診で、気になることを相談してみてもよいでしょう。

子ども家庭支援センター

18歳未満の子どもや子育てなどについての、あらゆる相談に応じています。

 

児童相談所

各都道府県と政令指定都市に設置されており、医師や保健師、児童福祉司などの専門職が相談に応じてくれます。

 

自治体の子育て窓口

多くの自治体はWebサイトに、地域の子育てに関する相談窓口の一覧を掲載しています。

お住まいの自治体ではどのような相談窓口があるか、Webサイトを参照してみてください。

重度知的障害のある方への支援

重度知的障害のある方への支援

重度知的障害のある子どもは、以下のような支援を利用することができます。

療育手帳

療育手帳は、知的障害者や知的障害児に交付される手帳です。

 

交付主体は自治体で、自治体により「愛の手帳」「みどりの手帳」などの呼び名になっていることがあり、知的障害の程度の判定基準も異なります。

 

療育手帳の取得は任意ですが、取得により各種手当の給付や税金の減免など、さまざまなサービスや支援を受けることができます。

合理的配慮

合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように人権を享受・行使できるよう、社会がおこなう配慮のことです。

以下に、重度知的障害のある子どもが受けている合理的配慮の例を紹介します。

  • 会話によるコミュニケーションが取りづらい子どもには、短い文で、平易な言葉を使って分かりやすく話しかける

  • 学校において、発語はないが、指差しや発声で要求などを伝えることができる子どもに対し、本人の理解度や操作能力にあわせて、絵カードやタブレット端末などのAAC(拡大代替コミュニケーション)を導入する

  • 小学校において、机に向かって学習することが難しい場合は、場所や内容を工夫しながら本人の興味に応じた短い活動を組み合わせている

特別支援教育

特別支援教育とは、障害の状態などに応じて、特別の教育課程や少人数の学級編制のもとにおこなわれる指導のことで、「特別支援学級」と「特別支援学校」があります。

 

これらのうち特別支援学校では、教育のほかにも身辺の自立や生活に必要な知識と技術を身につけることも目的としており、重度の障害のある子どもにも対応しています。

療育(発達支援)

療育(発達支援)とは、障害のある子どもやその可能性のある子どもに対し、困りごとの解決と、将来の自立や社会参加を目指して、発達の状態や障害の特性に応じた支援をすることです。

 

「通所支援」と「入所支援」などの形式があり、このうち通所支援は以下のような場所で実施しています。

  • 医療機関
  • 児童発達支援センター
  • 児童発達支援事業所
  • 放課後等デイサービス

療育(発達支援)についての相談先

児童発達支援事業所

主に未就学児を対象とする療育(発達支援)をおこなうほかにも、障害のある子どもに関する相談も受けつけています。

 

LITALICOジュニア

LITALICOジュニアでは、発達の遅れや偏りにより困りごとのある子どもに対し、児童発達支援をおこなっています。

 

市区町村から交付される「通所受給者証」をお持ちの場合は、LITALICOジュニアの児童発達支援事業・放課後等デイサービスも利用できます。

 

一人ひとりの発達段階や特性にあわせた支援計画を作成して支援をおこなっており、個別指導と集団指導を組み合わせたご利用も可能です。

 

子どもの発達について相談したいことがある場合や、児童発達支援の利用についてご興味のある場合は、お気軽にお問い合わせください。

重度知的障害についてまとめ

重度知的障害についてまとめ

重度知的障害は、4段階ある知的障害の症状の程度のうちの一つの段階を指します。

 

症状のあらわれ方は子どもにより異なりますが、言語や数、量、時間などの理解が難しかったり、なんらかの疾患や身体障害が併存していることも多いため、広範囲にわたる支援を必要とすることが多いとされます。

 

子どもの発達について気がかりなことがある場合や、どのようなケアをすればよいのかわからない場合には、医療機関や各自治体の支援機関などに相談してみてください。

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。