知的障害のある子どもの状態はさまざまなので、知的障害の種類(症状の程度)によって分類がなされることもあります。
しかし統一された基準はなく、複数の機関がそれぞれの基準を提示しています。
この記事では、知的障害の種類(程度)がどのように分類されているのか、そして知的障害の種類(程度)ごとの特徴について説明します。同時に、知的障害のある子どもが受けられる支援や、知的障害に関する相談先についても紹介しますので、参考にしてください。
知的障害の種類(程度)について
知的障害とは、知的能力の発達が年齢の水準よりも遅れているために、日常生活に支障が起こっている状態のことです。
知的障害のある子どもの状態は、さまざまです。
このため、知的障害の種類(症状の程度)をはかる分類が設けられていますが、統一された分類はなく、複数の分類が存在しています。
これは、そもそも「知的障害」に統一された定義がないため、さまざまな機関がそれぞれの定義をおこなっていることに起因します。
知的障害の定義
知的障害には、日本の法律における定義はありません。
このため、行政や教育の領域で、運用上の定義が用いられています。厚生労働省と文部科学省がそれぞれ「知的障害」の定義を示しています。
医学上の定義もまた異なり、「知的発達症」という疾患名になっています。
このように「知的障害」にはさまざまな定義がありますが、これらの機関の定義には、以下の3つの点が共通しています。
- 知的機能に制約があり、知的能力が年齢水準に比べて低い状態
- 1のために、日常生活に支障が生じている
- 1と2 が、発達期(18歳以前)に生じる
なお、医学的な診断名は「知的発達症」となっていますが、法律や福祉、教育の分野においては「知的障害」という言葉が用いられているため、この記事では「知的障害」との表記を用いて説明します。
知的障害の種類(程度)
ここでは、厚生労働省による知的障害の種類(程度)の分類を紹介します。
「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4段階に分類され、判定の際には以下の2つの基準が用いられます。
- 知能指数(IQ)
知的発達の程度を示します。
数値が低いほど、同年齢集団と比べて知的発達に遅れが見られます。
知能水準は、以下のように区分されています。
I:おおむね20以下
II:おおむね21~35
III:おおむね36~50
IV:おおむね51~70
- 日常生活能力
日常生活に適応する能力を示します。
a~dの4段階に区分されており、aに近いほど自立して生活することが難しく、dに近いほど自立した生活がしやすいことを示します。
判定では、日常生活能力が優先されます。例えば知能指数(IQ)が「I(IQ~20)」であっても、日常生活能力の水準が「d」であれば、「最重度」ではなく「重度」と判定されます。
療育手帳における分類
知的障害のある人や子どもは、障害者手帳の一種である「療育手帳」を申請することができます。
療育手帳の名称は自治体により異なる場合があり、例えば東京都では「愛の手帳」、名古屋市では「愛護手帳」という名称になっています。
療育手帳では、知的障害の種類(程度)を「等級」として分類しています。
療育手帳における等級の判定基準も厚生労働省が定めており、重度(A)とそれ以外(B)の2つの分類があります。
重度(A)の基準
① 知能指数が概ね35以下であって、次のいずれかに該当する者
- 食事、着脱衣、排便及び洗面など日常生活の介助を必要とする。
- 異食、興奮などの問題行動を有する。
② 知能指数が概ね50以下であって、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由などを有する者
- それ以外(B)の基準
重度(A)のもの以外
さらに、自治体によって(A)と(B)が細かく分類されていることがあります。
以下はその一例です。
- 東京都:1度(最重度)、2度(重度)、3度(中度)、4度(軽度)
- 埼玉県:Ⓐ(最重度)、A(重度)、B(中度)、C(軽度)
- 大阪府:A(重度)、B1(中度)、B2(軽度)
また、独自の基準を設けている自治体もあります。
例えば神奈川県は、知能指数が知的障害にあたる基準に満たない場合でも、自閉スペクトラム症の診断書があり、県内の児童相談所(横浜市、川崎市、相模原市を除く)または県立総合療育相談センターの長が認めた場合は、療育手帳の交付対象となります。
等級により、受けられるサービスの内容が変わります。
等級の分類方法や受けられるサービスについて詳しく知りたい方は、お住まいの自治体の福祉担当窓口に問い合わせてみてください。
知的障害の種類(程度)ごとの特徴
知的障害の状態は一人ひとり異なりますが、知的障害の種類(程度)ごとに、共通してみられることの多い特徴があります。
ここでは、知的障害がある場合の種類(程度)ごとの特徴を説明します。
軽度知的障害の特徴
言語やコミュニケーションなどが、年齢相応に期待されるよりも未熟であったり、日常生活でも複雑な課題については支援が必要な場合があります。
中度知的障害の特徴
記憶や言語、読み書きや数学的思考、時間や金銭の理解や実用的知識の習得、コミュニケーションなどにおいて、同年代の子ども達に比べて明らかな遅れがみられます。
重度知的障害の特徴
言語や数、時間や金銭などの概念をほぼ理解できず、食事や身じたく、排泄などの日常生活の多くの行動にも援助が必要です。
語彙や文法が限られた単純な会話や、身ぶりによるコミュニケーションを理解できる場合もあります。
ほかの疾患や身体障害が併存していることも多く、疾患によっては医療的な支援が必要となります。
最重度知的障害の特徴
日常的な身のまわりの多くのことにおいて他者の支援を必要とし、場合によっては常時の付き添いが必要になることもあります。
会話や身ぶりを使った非常に限られたコミュニケーションや単純な指示を理解できる場合があります。
ほかの疾患や身体障害の併存が多くみられますが、重度の身体障害の併存がない場合は、日常動作の一部を手伝うことができる場合もあります。
知的障害のある子どもが受けられる支援は?
知的障害のある子どもやその家庭を対象とする、さまざまな支援制度があります。
これらの支援を受けるには、申請をおこなう必要があります。
どの制度が利用できるのかわからない場合は、次の章で紹介する相談先に相談してみてください。
療育手帳
療育手帳の取得は任意ですが、取得により、障害児福祉手当や特別児童扶養手当などの各種手当の給付や、所得税や住民税などの税金の減免、公共料金や旅客運賃の割引などのサービスや支援の対象となります。
特別支援教育
障害のある子どもを対象とする特別支援教育には、以下のような種類があります。
特別支援学級
特別支援学級は、障害のある子どもが学習や生活における困難を克服することを目的とする学級です。
しかし、すべての学校に設置されているわけではありません。
障害の種別ごとに学級が編成され、1学級の定員は8名と少人数で、子ども一人ひとりの状態に応じた指導がおこなわれます。
特別支援学校
障害の程度が比較的重い子どもを対象とする学校です。
幼稚園・小学校・中学校または高等学校に準ずる教育をおこない、障害による学習や生活上の困難を克服し、自立して生活するために必要な知識や技能を習得することを目的とします。
小学校と中学校の1学級の定員は6名で、障害の状態などに応じた教育課程が編成されます。
通級による指導(現在検討されている)
通級による指導は、通常の学級に在籍して各教科などの指導を受けながら、一部の時間を対象に、障害に応じた特別の指導を受けます。
通級による指導の対象に、知的障害のある子どもは含まれていません。しかし、平成27年の地方からの提案等に関する対応方針等において、知的障害のある子どもに対する通級による指導の有効性について検証するため、特定の学校を研究開発を実施する学校に指定し、知的障害のある子どもに対する通級による指導について研究開発がおこなわれています。
通常学級内での合理的配慮
通常学級では通常の教育課程にもとづく指導がおこなわれますが、障害のある子どもが在籍する場合は合理的配慮を受けることができます。
合理的配慮とは、障害のある人の人権が障害のない人と同じように保障され、社会生活に平等に参加できるようにおこなわれる配慮のことです。
合理的配慮の例としては、特別支援教育支援員が配置され、日常生活動作や学習活動のサポートをおこなうなどがあります。
療育(発達支援)
療育(発達支援)とは、障害のある子どもを対象に、日常生活での基本的な動作および知識や技能の指導や、集団生活への適応訓練などの支援の取り組みを指します。
療育(発達支援)には、通所して受ける形や入所して受ける形などの種類があり、施設により提供しているサービスが異なります。
知的障害に関する相談先は?
ここでは、知的障害のある子どもについての相談先を紹介します。
特別支援教育コーディネーター
特別支援教育コーディネーターは、特別支援教育のコーディネーター的な役割を担う教員のことで、各園・学校に在籍しています。
教員の中から園長や校長により指名され、学校内の関係者や教育・医療・保健など分野の関係機関と連絡や調整をおこない、保護者との関係づくりを推進する役割を持っています。
市町村保健センター
保健センターは、市区町村における地域保健対策の拠点となる施設です。
地域住民の健康に関する相談を受けつけており、詳細な業務内容は地域により異なりますが、精神科医や精神保健福祉相談員などによる個別相談もおこなっている場合もあります。
子ども家庭支援センター
子どもや家庭に関する地域の総合相談窓口で、あらゆる相談に応じてくれます。
児童相談所
児童福祉法にもとづいて設置されている行政機関で、原則として18歳未満の子どもに関する相談を受けつけています。
児童福祉司や医師、心理判定員などの専門職員が配置されており、相談に対応してくれます。
児童発達支援センター
児童発達支援センターでは療育(発達支援)を提供するほか、その専門性を活かして、 地域の障害のある子どもやその家族からの相談にも応じています。
LITALICOジュニアでも、児童発達支援事業所と放課後等デイサービスを運営しており、発達の遅れにより困りごとのある子どもを対象に発達支援をおこなっています。
無料相談もおこなっていますので、「子どもの発達が気になる」などのお悩みがある方はお気軽にご相談ください。
知的障害の種類(程度)についてまとめ
知的障害の種類(症状の程度)には統一された基準はなく、複数の機関が分類の基準を提示しています。
例えば厚生労働省は知能指数(IQ)と日常生活能力の両方を考慮し、軽度から最重度までの4段階に分類しています。
知的障害のある子どもの状態は、一人ひとり異なります。
さまざまな支援制度が用意されていますので、これらの支援を利用しながら、子どもに合った支援をおこなってください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。