ADHD(注意欠如・多動症)の方の障害者手帳について|取得方法などを解説します

子どもに「集中力がない」「じっとしていられない」「思いつくままに行動してしまう」といったADHDの特性があり、診断を受けることや、障害手帳の取得について迷っている保護者の方もいるのではないでしょうか。

 

障害者手帳を取得すると、障害の種類や程度に応じてさまざまな福祉サービスを受けることができます。

 

しかし「障害者手帳を申請しても、取得できないのではないか」「具体的にどんな手順で申請すればいいのだろうか」など不安な気持ちもあるかもしれません。

 

この記事では、ADHDの診断がある人が取得できる障害者手帳の種類や申請手順、手帳がもらえない場合でも受けられる支援・サービスなどについて、詳しく紹介します。

ADHD(注意欠如多動症)の方は障害者手帳を取得できる?

ADHD(注意欠如・多動症)の方は障害者手帳を取得できる?

ADHDは、「注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害」とも呼ばれ、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(思いつくと行動してしまう)といった症状が見られる障害です。

 

障害者手帳には「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類があり、ADHDを含む発達障害「専用」の手帳はありません。

 

ADHDなど発達障害のある方は「精神障害者保健福祉手帳」の申請が可能です。

 

障害者手帳を取得することで「一部公共料金の割引」や「医療費の助成」など、さまざまな支援サービスを受けることが可能です。

ADHD(注意欠如多動症)の方は、療育手帳を取得できる?

知的障害を併存する場合は「療育手帳」を取得することもできます。ADHDと知的障害を両方有する場合は、精神障害者保健福祉手帳と療育手帳の両方の手帳を取得できます。

ADHD(注意欠如多動症)の方が障害者手帳を取得できない場合とは?

ADHDの方が申請できる精神障害者保健福祉手帳の対象は「長期にわたって精神疾患があり、生活に制限が出ている方」です。長期とは、症状の診察を受けた日(初診日)から6ヶ月以上が過ぎている場合を差します。つまり、ADHDの診察を受けた日から6ヶ月を過ぎていない場合は申請ができず、障害者手帳がもらえません。

 

また、医師からADHDだと確定診断されていないグレーゾーンの方の場合は、障害者手帳の申請条件を満たしていないため、障害者手帳はもらえません。

 

障害者手帳が取得できるか否かの審査をおこなうのは各自治体です。そして、等級の判定時と同様に診断書の内容が大きく影響すると考えられます。ADHDの診断があり障害者手帳の申請を検討している場合、まずは手帳が取得できそうか否か、かかりつけの医師に相談してみましょう。

 

万が一、障害者手帳を取得できなかったとしても、利用できる支援やサービスはあります。詳しい内容については、後ほどご紹介します。

障害者手帳の申請方法について

障害者手帳の申請方法について

ADHDの方が対象となる可能性のある、精神障害者保健福祉手帳と療育手帳の申請手順についてそれぞれ詳しく解説します。

精神障害者保健福祉手帳の申請手順

何らかの精神疾患があるために、長期にわたり日常生活または社会生活への制約があることが精神障害者保健福祉手帳申請の条件です。具体的には、対象となる精神疾患で初めて診察を受けてから6ヶ月以上経過している必要があります。

 

精神障害者保健福祉手帳の申請は、以下の手順でおこないます。

 

  1. 各自治体の障害福祉窓口などへ相談し、申請書類や必要な手続きを確認
  2. 指定医から診断書を取得
  3. 申請書類や写真、身分証明書、診断書を窓口へ提出

 

申請から交付まで1~2ヶ月程度かかります。障害者手帳という名称ですが、一部自治体ではカードタイプのものが選べる場合もあります。また、本人が自分で申請することが難しい場合は代理として家族や医療機関の職員による申請も可能となる場合があります。

 

交付の基準は自治体によって異なることがあるので、気になる方はお住まいの自治体の障害福祉窓口などで相談してみるといいでしょう。

療育手帳の申請方法

療育手帳申請の条件は、児童相談所または知的障害者更生相談所において、知的障害があると判定されることです。

 

療育手帳の申請は、以下の手順でおこないます。

 

  1. 各自治体の障害福祉窓口などへ相談し、申請書類や必要な手続きを確認
  2. 児童相談所や知的障害者更生相談所で判定を受ける指定医から診断書を取得
  3. 申請書類や写真、身分証明書、診断書を窓口へ提出

 

判定は申請者が18歳未満の場合児童相談所にて、18歳以上の場合は知的障害者更生相談所でおこないます。

障害者手帳が取得できない場合でも受けられる支援や相談先について

障害者手帳が取得できない場合でも受けられる支援や相談先について

ADHDの特性がある子どもが受けられる支援や相談先のなかで、障害者手帳がなくても受けられる支援や相談先をご紹介します。

自治体の児童福祉課

全ての妊産婦、子育て世帯、子どもへ一体的に相談支援をおこなう機能を有する機関として、市区町村に設置が推奨されています。子育てに関する困りごとの相談に乗り、利用できる支援やサービスの紹介や情報提供をしています。

子ども家庭センター

全ての妊産婦、子育て世帯、子どもへ一体的に相談支援をおこなう機能を有する機関として、市区町村に設置が推奨されています。子育てに関する困りごとの相談に乗り、利用できる支援やサービスの紹介や情報提供をしています。

児童相談所

 

児童相談所は、児童福祉法に基づき設置されています。児童相談所には、児童心理司や児童福祉司などの専門のスタッフが在籍しており、18歳未満の子どもに関するあらゆる相談に無料で対応してくれます。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターでは、発達障害のある方を総合的にサポートしています。

 

例えば、発達障害のある本人やその家族の発達支援に関する相談に応じたり、家庭での対応方法についてアドバイスをおこないます。また、発達検査を実施したり、発達障害のある方の特性に応じた支援の具体的な方法について支援計画の作成や助言をおこなうこともあります。

児童発達支援事業所

児童発達支援事業所とは、障害のある未就学の子どもが、日常生活における基本的な動作や知識技術を習得するためのサポートや、就学に向けた集団生活へ適応するためのプログラムなどの支援をおこないます。

 

利用する際に、障害者手帳の有無は問われません。児童相談所や保健センター、医師により療育が必要と認められた場合に利用することができます。利用するためには「通所受給者証」が必要です。

 

通所受給者証や児童発達支援について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

放課後等デイサービス

障害のある就学している児童のためのサービスです。

 

放課後や夏休みなどの長期休暇を利用して、個別指導や集団活動を通して、生活能力の向上や集団生活へ適応するためのプログラムを提供しています。

児童発達支援センターと同じく、「通所受給者証」を取得している方が利用できます。

 

放課後等デイサービスについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

LITALICOジュニアについて

LITALICOジュニアでは、児童発達支援・放課後等デイサービスを運営しています。ADHDの特性があり、障害者手帳を持っていない子どもにも利用していただくことが可能です。

 

 得意・不得意を見つけ、一人ひとりに合わせた指導を提供し、学校や日常生活で自分らしく過ごせるようにサポートしています。

 

「ADHDの特性のある子どもについて、障害者手帳はもらえない、もしくは申請していないが、受けられる支援を知りたい」と考えている保護者の方はぜひ一度ご相談ください。

ADHDの子どもとの関わり方で大切なこと

ADHDの子どもとの関わり方で大切なこと

障害者手帳をもらえるか否かにかかわらずADHDの子どもと関わる上で大切なのは、ADHDの特性をよく理解すること、環境の調整や対策をおこなうことです。

 

まずは、子どもにADHDのどのような特性があるのか、日常生活で困っていることは何かを理解しましょう。その上で子どもとの接し方を工夫したり、環境調整や周囲への働きかけにより、ADHDの特性による困りごとを減らすための対策をできるといいでしょう。

 

例えばADHDのある子どもは、その特性から、怒られる機会が多かったり、忘れ物などの失敗を繰り返したりすることで、自分に自信が持てずに、色々な方面で支障をきたしてしまうことがあります。ADHDの特性については、以下のような対策が考えられます。

指示は具体的に一つずつする

長い説明や、「ちゃんとして」「急いで」など抽象的な言い方は、ADHDのある子どもには伝わりにくいことがあります。予定ややってほしいことを短く具体的に伝えることを心がけましょう。

視覚的な工夫をする

ADHDの特性がある子どもは、言葉の指示を理解しにくい場合があります。なるべく視覚的な情報を使って具体的に指示しましょう。

失敗しないための声かけをする

衝動的に行動をしてしまいがちなADHDの特性がある子どもには、事前に「順番に並びましょう」などと声をかけるなど、失敗しないためのサポートをおこなうことが大切です。

伝え方を工夫する

なるべく具体的な言葉で、短く伝えることが大切です。多くのことを一度に伝えようとするとかえって混乱させてしまうことが多くあります。また「走らないで」といった否定語は伝わりづらいため、「歩いて行こう」など、してほしい行動に置き換えて伝えるのも、できる工夫のひとつです。

うまくいかないときは理由を考えて環境を変える

うまくいかないときや、トラブルが起きたときは、その背景にある理由を考えてみてください。子どもに伝わりづらい言葉がある、気が散るものが多く落ち着けない、など、環境面で変えられることはないかという視点を持つといいでしょう。

動ける時間を設けてメリハリをつける

じっとしなければならない場面では、ADHDの特性のひとつである多動性を押さえようとするのではなく、課題の途中に小休止を入れるなど、動ける時間と静かにする時間のメリハリをつけるといいでしょう。


一方で、子どもと関わる保護者自身も悩みやストレスを抱えることがあります。悩みは一人で抱え込まず、身近な専門機関で相談したり、周囲に協力を求め、ストレスをためこまないことが大切です。

ADHD(注意欠如多動症)と障害者手帳についてまとめ

ADHD(注意欠如・多動症)と障害者手帳についてまとめ

ADHDの診断があると、障害者手帳の申請をすることができます。ただし、条件を満たさない場合は手帳を受け取れない可能性があるため、まずはかかりつけの医師に相談しましょう。

 

障害者手帳の申請をするかどうかにかかわらず、子どもにADHDのどのような特性があるのかを知ったうえで子どもとの接し方を工夫したり、環境調整や周囲への働きかけをすることも大切です。

 

困りごとがどこにあるか、どのような支援やサポートが必要なのかを考えたうえで、障害者手帳の申請や、福祉サービスの利用も検討してみてください。

  • 監修者

    鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員

    井上 雅彦

    応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。