子どもが中学校に進学してから、「勉強についていけなくなった」「友達との関係がうまくいっていない」「忘れ物や遅刻などがなくならない」などの状態が続き、「発達障害なのかも?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。
中学生になり環境が大きく変わることで、それまで感じていなかったことに困難を感じることもあります。
この記事では発達障害の種類や、中学生に見られる特徴、発達障害の診断や相談先について紹介します。
発達障害とは
発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達の偏りによる障害のことです。
発達障害の特性と周囲との環境とのミスマッチがあると、日常生活や社会生活でさまざまな困りごとが生じてきます。
例えば中学生の困りごとの傾向としては、「人間関係がうまくいかない」「数学など特定の勉強だけ苦手」「学校にシステムに馴染めない」などが見られます。
発達障害はその特性によって、「ASD(自閉スペクトラム症)」「ADHD(注意欠如多動症)」「SLD(限局性学習症)」と分かれています。
また、診断はないが発達障害の傾向がある場合を、一般的に「発達障害のグレーゾーン」と呼ぶこともあります。
まずはそれぞれどういった特徴があるのか見ていきましょう。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症)とは、
- 社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ
- 限定された興味・関心、反復行動
といった特性がみられる発達障害のことです。
特徴として「コミュニケーションが一方的になる」「暗黙の了解の理解が難しい」「好きな行動にのめり込み切り替えが難しい」「環境やルールの変更に対して適応が難しい」といった困りごとが生じることがあります。
ほかにも、「太陽の下などまぶしい光が苦手」などの視覚過敏や、「小さな音にも反応する」などの聴覚過敏といった「感覚過敏」のある方や、「痛みを感じづらい」などの「感覚鈍麻(どんま)」がある方もいます。
以前は自閉症や広汎性発達障害、アスペルガー症候群と呼ばれていましたが、2013年に刊行されたDSM-5(アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル)によって「ASD(自閉スペクトラム症)」という診断名に統一されました。
ADHD(注意欠如多動症)
ADHD(注意欠如多動症)とは、
- 不注意:集中することに困難がある
- 衝動性:思いついたことをすぐに行動する傾向がある
- 多動性:じっとしていることが難しい
という特徴が見られる発達障害のことです。
中学生だと「授業中もすぐ気が散ってしまう」「忘れ物・無くしものが多い」「時間の管理や整理整頓が苦手」「周囲の状況に関係なく思い立ったら衝動的に行動してしまう」といった困りごとが生じる可能性があります。
ADHDの方の中でも、不注意が現れやすい「不注意優勢型」、多動性と衝動性が現れやすい「多動-衝動優勢型」、どちらも現れる「混成型」があります。
SLD(限局性学習症)
SLD(限局性学習症)とは、全般的な知的発達の遅れはみられないものの、文字の読み書きや数字の計算など特定の学習に困難がある発達障害のことです。
- 識字障害:文字を読むことに困難がある
- 書字障害:文字を書くことに困難がある
- 算数障害:計算や数字の概念の理解に困難がある
という種類があります。
中学生では「特定の平仮名や漢字が読みづらい/書きづらい」「暗算など特性の計算が苦手」などの困難が生じることがあります。
発達障害のグレーゾーンについて
発達障害のグレーゾーンとは、発達障害の特性が見られても診断基準は満たさず、診断名はついていない状態を指す言葉です。医学用語ではなく、一般的に使われている言葉となります。
診断名がつかないといっても学校生活などで困りごとや、グレーゾーンならではの悩みが生じることもあります。
発達障害の方のサポートの中には診断がなくても受けることができるものもありますので、診断の有無にかかわらずそういったサポートも活用しながら困難を減らしていくことが大事です。
発達障害のある中学生の特徴
同じ中学生でも特性や子どもの成長は発達障害の有無に限らず人それぞれ異なるため、困りごともひとそれぞれ異なってきます。
中学生になって環境が変化することで、小学生のころは気にならなかったことが困難と感じるということもあります。
こういった変化に子どももつらい思いをしています。まずは子どもの気持ちに寄り添って、一緒に対応方法を考えていけるといいでしょう。
学習面での困りごとと対応例
中学生になって学習面では
- 勉強についていけなくなる
- 授業に集中し続けることが困難になる
- テストのために計画を立てることが難しい
などの困りごとがよくあります。
教科ごとの難易度が高くなることや、教科担当制になり教師ごとに教え方が異なることで理解がしづらくなるといったことが要因として考えられます。ほかにも、授業時間も長くなることが多く、集中し続けることが難しくなることもあります。
また、「中間・期末テスト」など定期テストが導入され、自身でスケジュールを立てて勉強をすることが求められるようになります。しかし、うまく計画を立てることができず、テストに苦手意識を持つといったこともあります。
対応方法の例
授業に集中しやすくなる対応方法としては「環境調整」や「授業のルールを決めておく」などがあります。
周りの生徒の動きが気になって集中できない場合は「一番前の席にしてもらい、周りに動きが目に入らないようする」などの環境調整をする方法があります。
気になったことがあるとすぐに質問や発言をする場合は、ルールを決めておく方法があります。「先生が話し終わってから質問をする」「質問するときは挙手をする」「指名されてから話しはじめる」と決めて、紙などに書いておくことでわからないときに何をしたらいいかが明確になります。
ほかにも、スケジュールを立てることが苦手な子どもへの対応方法としては、カレンダーなどに予定やすることを書き出しておくことが挙げられます。
その際は具体的に「何月何日までに」「何ページまで進めるか」と書いていきましょう。また、リマインダーアプリなどのツールを使って抜け漏れを防いでいくことも大事です。
管理するツールは学校に持ち込めるか、本人に扱いやすいものかなどを考慮して選んでいくといいでしょう。
子どもの苦手や不得意に応じた対応が必要となるため、環境調整などにおいては学校の先生に相談することが大切です
環境の変化での困りごとと対応例
中学生になったことによる環境の変化で
- 遅刻が多くなる
- 忘れもの・無くしものが増える
- 制服の肌触りが気になってしまう
などの困りごとが現れることがあります。
移動手段や朝起きる時間が変わることに慣れることが難しく、それが遅刻につながることや、提出物や持ち物の自己管理が求められることも増え、準備がうまくできないことや、管理が苦手で、忘れものや無くしものが増えるということがあります
また、中学生になると学校指定の制服を着る場合が多くありますが、感覚過敏がある子どもの中には制服の肌触りが不快で着ることが難しいという方もいます。
対応方法の例
電車やバス通学になって遅刻が増えた場合は、何時のどの電車に乗るかを紙に書くなど視覚的にわかりやすくする方法があります。それとともに家を出る時間の前にアラームを鳴らすなど、ツールを使って工夫していきます。
また、忘れ物やなくしものが多い場合は、前日までに準備を整えておくことも方法としてあります。その際も、教科ごとに教科書・ノート・プリントなど必要なものを「色分けしたファイルに入れておく」「持ち物のチェックリストを活用する」など視覚的にわかりやすくしておくといいでしょう。
制服が苦手な場合は「インナーを着やすい素材に変える」「ワイシャツには糊をつけないようにする」「制服をワンサイズ大きいものに変更する」などで、肌に触れる部分を少なくしていく方法があります。着方は学校ごとに指定があると思いますので、学校と相談しながら対応していきましょう。
人間関係での困りごとと対応例
人間関係面では中学生になり、
- 暗黙のルールがわからない、冗談が通じないなどコミュニケーションのずれを感じる
- 新しい人間関係がなかなか築けない
といった困りごとが生じることがあります。
それまで接してこなかった人と接するようになったり、先輩後輩などの明文化されていないコミュニケーションの取り方がわからずに「何かうまくいかない」と感じることもあります。
対応方法の例
新しい人間関係になじめていない場合は「ルールを明確にする」ということが挙げられます。先輩後輩の関係では「挨拶をする」「敬語を使う」などすることを明確にしていきます。
同級生とも「話題にしないこと」を決めたり、途中から参加する場合は自分の話題を話す前に「今何の話をしているの?」と聞いてからにするなどルールを決めるとコミュニケーションがとりやすくなることがあります。
人間関係が上手くいかず悩みを抱えている場合もありますので、子どもの気持ちを聞いたり、学校の先生に相談することも大切です。
ほかにも、SST(ソーシャルスキルトレーニング)などコミュニケーションのトレーニングを受ける方法もあります。
二次障害へつながることも
このような困りごとがある中で、自分の特性に合わない環境に身を置き続けることで、不安が大きくなったり、強いストレスを受けることによって、うつなどの精神疾患や不登校などの二次障害につながることがあります。二次障害とは医学的な診断名ではなく、状態像を指す言葉です。
二次障害とまではいかなくても、困りごとがある状態は子どもにも大きなストレスとなります。子どもが悩んでいる様子があったら、早めに対応していくことが大事です。
困りごとへのサポート
診断名が同じであっても、子どもの性格や発達の段階、周りの環境などは同じではありません。発達障害とひとくくりにせずに子どもに合ったサポートが必要になります。
ここでは発達障害の子どもへのサポートとして、療育(発達支援)と環境調整を紹介します。
療育(発達支援)
療育(発達支援)とは、発達が気になる子どもに対して、状態や特性に応じて、現在の困りごとの解決と、将来の自立や社会参加につなげる支援のことです。
療育では集団でのコミュニケーションの取り方の練習や、苦手な教科に対してその人に合った方法で学習を進めるといったサポートを受けることができます。
療育は学齢期の子どもへは「放課後等デイサービス」などで実施しているほか、民間の学習塾でも提供している場所もあります。
合理的配慮
合理的配慮とは学校や職場などにおいて、障害のある方に対しそれぞれの障害特性や困りごとに合わせておこなわれる配慮のことです。
困りごとに応じた環境調整といった配慮を受けることができ、「テストで周りが気になって集中できない」という子どもには、別室でテストを受けるといった例があります。
合理的配慮は担任や学年主任、後ほど紹介するスクールカウンセラーなどと相談しながら、可能な範囲で実施していきます。
発達障害のある中学生への支援事例
ここでは発達の気になる子どもへのサポートをおこなっている、LITALICOジュニアの支援事例を紹介します。
ASD(自閉スペクトラム症)のある15歳(中3)の支援事例
困りごと
たかしくんは広汎性発達障害(以降は現在の診断名である「ASD(自閉スペクトラム症)」と記載します)と診断を受けた中学3年生。
スマートフォンやパソコンなどの電子機器の知識が豊富で、使い方や性能まで詳しく教えてくれる反面、相手が興味なくても一方的に話してしまいトラブルになるということもありました。
これはASD(自閉スペクトラム症)の「社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ」「限定された興味・関心、反復行動」という特性が、周りと合わずに困りごととして現れている例でした。
LITALICOジュニアでの取り組み
LITALICOジュニアでは、まずはたかしくんとスマートフォンやパソコンの話をして信頼関係を築いていきました。
このように楽しく会話をする中で、相手への伝え方や、こちらの表情や状況を読みながらどのように話せているかを見ていきます。
その中でたかしくんは、
「そんなこともしらないのかよ~!」
「そのスマホは使う価値ないよ!」
とストレートに伝えるという場面が多くありました。
そこでLITALICOジュニアでは「アサーティブ」な伝え方の練習をすることになりました。
アサーティブな伝え方とは「相手を尊重しつつ、自分の意見を伝えるコミュニケーション方法」のことです。
たかしくんは相手の気持ちになって考えることが難しいため、「そういう言葉を聞いた友だちってどう思う?」と問いかけても「別にどうも思わない。」と答えることが多くありました。
しかし、「自分にそういう言葉を言ってきたらどう思う?」と聞き方を変えると、「嫌だ」と答えるなど、自分の立場で考えることはできるようでした。
そこでLITALICOジュニアでは「自分で言われて嫌じゃない言葉にしよう」という形で指導をおこなっていきました。
その結果「そんなこともしらないのかよ~!」から「それって難しいよね、でもおれ知ってるから教えてあげるよ!」に、「そのスマホは使う価値ないよ!」から「そのスマホ形はいいよね、でも性能的にこっちの方がいいみたいだよ!」と相手を尊重した伝え方ができるようになっていきました。
ただ言葉を変えようとしても必要性を感じられないこともあります。相手の立場に立つのが難しくても、自分のことに置き換えるなどその子が実感しやすいようにしたうえで、伝え方を変えていくことも大切です。
LITALICOジュニアでは、このように子ども一人ひとりにあわせて、必要なスキルの獲得をサポートしています。
「教室に通ってどんな指導が受けられるのか知りたい」「うちの子にはどんなサポートが必要かわからない」という方には体験授業がおすすめです。体験授業では、子どもが抱えている課題や興味関心に合わせたマンツーマンでの指導を受講いただけます。
ぜひお気軽にお問い合わせください。
中学生の発達障害の診断について
ここでは発達障害の診断について、受けることができる場所や診断の流れを紹介します。
発達障害の診断はすべての医療機関でおこなわれているわけではなく、児童精神科や発達外来のある病院などで受けることができます。
どういった病院を選んでいいのか迷ったり、受診に紹介状が必要と言われた場合は、次の章で紹介する発達障害者支援センターなどに相談をすると医療機関の紹介も受けることができます。
発達障害の診断の流れ
発達障害の診断は「問診」や「心理検査」を通しておこなわれます。
問診
問診では医師から保護者に日常生活や学校生活での様子をヒアリングします。
幼少期からさかのぼって聞かれるため、母子手帳や保育園・幼稚園の連絡帳などを用意しておくといいでしょう。
他にも現在通っている中学の担任からの記録などもあると、学校生活の様子も答えやすくなります。
行動観察
行動観察では、質問に答えられているか、目線を合わせられるか、集団の中で遊べているかなどを確認し、発達の偏りや傾向、発達障害特性の有無をみます。
心理検査
心理検査は一定の基準に基づいて、パーソナリティや知能水準や発達水準などを測るための検査のことです。
大きく分けて「発達検査」「知能検査」といった種類があり、その中でもさらに種類が分かれています。その中から問診などを通して医師や心理師が適切な検査を実施します。
他に脳波などの「生理的検査」をおこなう場合もあります。
検査は一回だけで終わることは少なく、通常は何回か検査のために病院を訪れることになります。それらの検査結果をもとに、医師が発達障害の診断をおこないます。
発達障害としての診断名がつかない場合でも、心理検査の結果は教えてもらえるため、得意不得意の傾向などを客観的に知ることができます。
中学生の発達障害に関する相談先
この章では発達障害に関する相談先の紹介をおこないます。他にも、学校内での相談先や教育に関する相談先も併せてお伝えします。
発達障害についての相談先
子育て全般から発達障害についての相談ができる支援機関は、
- 子ども家庭支援センター
- 児童相談所
- 発達障害者支援センター
- 自治体の障害福祉窓口
などがありますので、簡単に紹介します。
子ども家庭支援センター
子ども家庭支援センターは18歳未満の子どもに関する相談に対応するほか、ショートステイなど在宅サービスの提供をおこなっている支援機関です。
センターへ来所しての相談のほか、電話での相談を受け付けている場合もあります。子どもの発達に関する相談に対してアドバイスや、ほかの関係機関の紹介などの対応をおこなっています。
自治体によっては、愛称でよばれることがあるのでお住まいの自治体のWebサイトで調べてみてください。
児童相談所
児童相談所は18歳未満の子どもに関する各種相談をおこなうことができる支援機関です。
児童福祉司や児童心理司などの専門家が、子どもの発達についてや不登校の悩みなどの相談に対して、アドバイスや他の関係機関への紹介などをおこなっています。
児童相談所でも場所により来所や電話での相談が可能です。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、年齢にかかわらず発達障害の方への支援を総合的におこなう支援機関です。
発達障害の方やその家族からの相談に対して、医療・福祉・教育などの関係機関と連携しながらアドバイスや医療機関の紹介などをおこなっています。
電話での相談ができるかは場所によるため、お住まいの地域の発達障害者支援センターのWebページでご確認ください。
自治体の障害福祉窓口
お住まいの自治体の障害福祉窓口でも、発達障害に関する相談を受け付けています。
自治体により異なりますが、相談に対して状況に合った支援機関の紹介などをおこなっています。
また、自治体のホームページには子育て全般や、子どもの発達が気になる方向けに相談窓口が掲載されていることがあります。
仙台市の例を載せておきますので、相談先の参考にお使いください。
学校内や学習に関する相談先
学校の中での相談先や、学習の遅れが気になる場合の相談先としては
- スクールカウンセラー
- スクールソーシャルワーカー
- 教育支援センター(教育相談所)
などがあります。こちらもそれぞれを簡単に紹介します。
スクールカウンセラー
スクールカウンセラーは、不登校や学習、人間関係に関することなど学校内でのさまざまな悩みに対して、心のケアをおこなう職業のことです。
自治体から各学校に派遣されており、生徒や保護者からの相談に対して、カウンセリングや教育相談室や児童相談所などの関係機関と連携してのサポートをおこないます。
スクールソーシャルワーカー
スクールソーシャルワーカー(SSW)は、社会福祉士や精神保健福祉士などの専門的な資格を持ち、保護者や本人からの学校生活や学習の悩みなどの相談に関係機関と連携しながらサポートをしていきます。
教育支援センター(教育相談所)
教育支援センターでは、子育てに関すること、こころや身体の発達のこと、性格行動に関すること、学校生活に関することなど、幼児期から思春期の子どものさまざまな相談に応じます。
地域によっては、教育委員会の中にその相談機能をもっているところもあります。
中学生の発達障害についてまとめ
中学生になると、学習方法や人間関係など環境が大きく変化します。発達障害の特性と、新しい環境とのミスマッチによって、小学生のころには感じなかった困りごとが生じてくる可能性があります。
診断名が同じでも困りごとは子どもによって変わってきます。その子がどういったことに困っているのかを把握して、適切なサポートをしていくことが大事です。家庭だけで対応するのではなく、学校内外のサポートも活用していきましょう。
LITALICOジュニアでは、発達障害のある中学生の指導実績も豊富にあります。まずは無料で相談もできますのでお気軽にお問い合わせください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。