知的障害(知的発達症)とは、発達期までに生じた知的発達の遅れにより、社会生活への適応が困難になっている状態のことです。
一方発達障害は、生まれつきの脳機能の発達の偏りにより、日常生活に支障が出ている状態のことです。
このように知的障害と発達障害は、定義や困りごとの内容も似ているため、違いがよくわからない方もいるかもしれません。
そこでこの記事では、知的障害と発達障害それぞれの定義や特徴と困りごと、知的障害と発達障害の違いに加え、知的障害や発達障害のある子どもが利用できる支援についても説明します。
知的障害(知的発達症)と発達障害の違いは?
子どもに「勉強の遅れが気になる」「コミュニケーションが苦手」などの困りごとがあり、気になっている保護者の方もいらっしゃると思います。
これらの困りごとは、知的障害でも発達障害でもみられます。
ただ、知的障害と発達障害では「何が原因で、この困りごとが起こっているのか」ということが違うため、対応方法も異なります。
なお、知的障害の名称は分野によって異なりますが、福祉や教育、法律の分野では「知的障害」が標準的な用語となっています。
このため、この記事では「知的障害」という表記を用いて説明します。
知的障害(知的発達症)と発達障害の関係
知的障害には、国際的に統一された定義や日本の法律における明確な定義がないため、さまざまな定義が存在しています。
医学的な分類では、精神疾患の国際的な診断マニュアルであるアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において、知的障害は「知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)」と呼ばれており、「神経発達症群/神経発達障害群」の中に位置づけられています。
つまり、知的障害は「発達障害」の枠組みの中に含まれるということになります。
また、知的障害は「発達障害」に含まれるほかの疾患である「ASD(自閉スペクトラム症)」や「ADHD(注意欠如・多動性障害)」、「学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)」や「発達性協調運動障害」と併存する場合もあります。
このため知的障害や発達障害は、単体の疾患が存在している場合と、複数の疾患が併存している場合とでも、対応が異なることになります。
知的障害(知的発達症)と発達障害の困りごとの違い
例として、「実学年で習う漢字を読むことが苦手」という困りごとがある場合を考えてみましょう。
この困りごとの起因が知的障害である場合と、発達障害の種類である「学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)」または「発達性協調運動障害」である場合とでは、困りごとの内容が以下のように異なります。
なお、違いをわかりやすくするために、ここでは困りごとの起因が知的障害と発達障害との併存ではなく、知的障害、学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)、または発達性協調運動障害のいずれか単体の疾患である場合について説明します。
知的障害の場合
全般的な知的発達が数歳(数学年)遅れているため、困りごとは「漢字の読みが苦手」に限定されません。
ほかの学習科目のほか、日常生活におけるコミュニケーションや行動のコントロールなどにも困難がみられる場合があります。
学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)の場合
漢字の読みの苦手さは、以下のような困難から起こっている場合があります。
- 似ている漢字を見分けるのが難しい
- 漢字の形を認識することが難しいため、覚えられない
- 漢字と、その読みを関連づけることが苦手
しかし、困りごとは「漢字を読むことが苦手」ということに限定されています。
ほかの学習科目や日常生活では、支障をきたすレベルの困りごとはみられません。
学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)のうち、読み書きに困難がある場合を読字障害(ディスレクシア)と呼びます。
発達性協調運動障害の場合
漢字を読むことが苦手な理由は、体のさまざまな部位を同時に動かして協調させる「協調運動」が苦手であるため、手先の細かなコントロールが難しいことが要因のひとつとなっています。
漢字の学習方法の一つである「何度も書いて覚える」ということが苦手なため、漢字を覚えること自体に遅れが生じ、結果として漢字の読みもわからない場合があります。
「漢字の読み」以外にも、文字を手書きすることや運動が苦手だったり、日常生活でも 「姿勢が崩れやすい」 「箸がうまく使えない」などの困りごとがある場合があります。
医療と福祉の観点における知的障害(知的発達症)と発達障害の違い
医療と福祉の観点における位置づけと判断基準には、以下の違いがあります。
医療の観点
DSMの第4版「DSM-4」では、知的障害は「精神遅滞」という名称でした。
しかし2013年に公開された第5版「DSM-5」では、「知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)」と呼ばれています。
また、DSM-5では知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)は、発達期に発症する一群の疾患である「神経発達症群/神経発達障害群」の中に位置する疾患として、「ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)」や「ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)」、「SLD(限局性学習症/限局性学習障害)」や「発達性協調運動症/発達性協調運動障害」などと併記されるという位置づけになっています。
知的障害のDSM-5における診断基準ではIQ(知能指数)の値だけではなく、社会生活への適応度もあわせて、総合的に判断されます。
福祉の観点
知的障害
いわゆる「療育手帳(愛の手帳)」の交付対象となり、規定の支援が受けられます。
しかし、知的障害には法律上の定義や統一された定義もないため、療育手帳(愛の手帳)の交付主体である自治体ごとに交付の判定基準が異なります。
細かな基準は異なりますが、IQの値と社会生活への適応度をあわせて判定している自治体が多いようです。
発達障害
発達障害は、知的障害と併存している場合もありますが、知的障害をともなわない発達障害の場合は「精神障害者保健福祉手帳」の交付対象となり、規定の支援が受けられます。
知的障害(知的発達症)とは?
厚生労働省は「知的障害」を以下のように定義しています。
知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの
具体的には、以下の2つの項目の両方に該当する場合に「知的障害」と判断されることになっています。
(a) 「知的機能の障害」について
標準化された知能検査(ウェクスラーによるもの、ビネーによるものなど)によって測定された結果、知能指数がおおむね70までのもの。
(b) 「日常生活能力」について
日常生活能力(自立機能、運動機能、意思交換、探索操作、移動、生活文化、職業等)の到達水準が総合的に同年齢の日常生活能力水準(別記1)の a, b, c, d のいずれかに該当するもの。
またDSM-5も診断基準を示していますが、共通する点は以下の3つです。
- IQ(知能指数)が70未満
- 日常生活や社会生活への適応能力が低い
- 発達期(18歳以下)に生じている
知的障害(知的発達症)の種類(分類)
知的障害は、症状の程度によりいくつかの段階に分類されます。
しかし分類の基準も、機関により異なります。
例えば厚生労働省は、以下に示すIQ(知能指数)の値に加え、日常生活能力の水準も考慮することとして、以下の4段階に分類しています。
- 軽度(IQ51~70)
- 中等度(IQ36~50)
- 重度(IQ21~35)
- 最重度(IQ~20)
また、DSM-5も「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4段階に分類していますが、IQの値の目安は示していません。
読み書きや数学、論理的思考、知識の習得や問題解決などの能力についての領域である「概念的領域」、対人コミュニケーションや社会的判断などの領域である「社会的領域」、セルフケアや行動の自己管理など、実生活における学習や自己管理の領域である「実用的領域」の3つの領域における状態を総合的に評価して、症状の段階を判定するとしています。
知的障害(知的発達症)の特徴と困りごとの例
知的障害の状態は年齢や症状の程度などにより異なりますが、全般的な知能の遅れと、日常生活への適応機能が同じ年齢・性別・社会文化的背景を持つ子どもたちと比べて遅れていることが特徴であるとされています。
これらの特徴は、例えば以下のような困りごとにつながることもあります。
ただし、困りごとの現れ方は症状の程度により大きく異なります。
概念的領域における困りごと
・読み書きや計算などの勉強や時間の理解、金銭の管理が苦手
・抽象的な思考や、「計画を立てる」「優先順位を決める」などの実行機能に困難が見られることがある
社会的領域における困りごと
・会話や言語の使用、表情や身振り手振りなどから相手の意図を読み取ることなどが難しいため、コミュニケーションが年齢相応に期待されるよりも未熟である
実用的領域における困りごと
・食事や身じたく、排泄や衛生などの身の回りの基本的な動作や、家事や買い物、金銭管理などの生活の自立に必要な物事をおこなうのに、プログラムや支援が必要な場合がある
・技能を必要とする仕事をうまくこなせるようになるためには、支援を必要とすることが多い
知的障害(知的発達症)の原因
知的障害の原因は多岐にわたりますが、特定できないこともあります。
関連が考えられる要因には、主に以下の項目が挙げられています。
先天的要因
遺伝子や染色体に異常のある疾患、妊娠早期でのアルコールや薬物などの摂取や外傷などにより生じる疾患などが挙げられます。
ダウン症やプラダー・ウィリ症候群、ソトス症候群などが比較的よくみられるとされます。
周産期の要因
出生時期に脳障害が起こる場合で、低酸素や循環障害、感染などが挙げられます。
後天性の要因
出生後に脳障害が起こる場合で、頭部の外傷や、脳炎・脳症・髄膜炎などの後天性の脳障害などが原因となることがあるとされます。
発達障害とは?
発達障害とは前述のように、生まれつき脳機能の発達に偏りがある状態のことです。しかし発達障害は、一律に症状によって診断されるわけではありません。
脳機能の発達の偏りは得意・不得意の特徴につながりますが、現れ方は一人ひとり異なります。
この特徴の程度が「社会生活を送るうえで支障となるか否か」が、「発達障害」と診断される際の境目になります。
発達障害の原因
生まれつき脳機能の発達に偏りが起こる原因は、完全には解明されていません。
現時点では、遺伝子の組み合わせや環境などの複数の要因が影響して、脳機能の偏りが生まれるのではないかと考えられています。
発達障害には以下のような種類があります。それぞれについてご紹介します。
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如多動症)
- SLD(限局性学習症)
- DCD(発達性協調運動症)
ASD(自閉スペクトラム症)
DSM-5において、自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害などが統合されてできた診断名です。
コミュニケーションや対人関係における困難、反復する行動や特定の物への興味の偏り、感覚の過敏または鈍感さなどの特徴があります。
これらの特徴は、以下のような困りごとにつながる場合があります。
- 他人の気持ちや場の空気を読み取ることが苦手
- 見聞きしたことや思ったことをそのまま言葉にしてしまい、相手を当惑させてしまう
- 環境の変化への臨機応変な対応が苦手なため、急な予定変更などに動揺しやすい
ADHD(注意欠如多動症)
不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(思いつくと行動してしまう)などを特徴とする障害です。
これらの特徴は幼い子どもに共通してみられるものですが、これらの特徴が顕著で、社会生活に支障をきたしている場合に診断されます。
ADHD(注意欠如多動症)の特徴が困りごとにつながる場合では、以下のような例があります。
- 些細なことですぐカッとしてしまうため、友達とよく喧嘩してしまう
- じっとしていられず、状況に関係なく動き回ったり走り出したりする
- 集中力が続かず、ほかのことに気を取られやすい
SLD(限局性学習症)
文部科学省は、
全般的に知的発達に遅れはないが、学習に必要な「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」などの基礎的な能力のうち、1つまたは複数の能力について、なかなか習得できなかったり、うまく発揮することができないことで、学習に困難が生じている状態
と定義しています。
SLD(限局性学習症)は、小学校に入って、授業で文字の読み書きや計算をするようになってから、以下のような困りごとを通じて明らかになることが多いようです。
- ひらがなや漢字が正しく読めない・書けない
- 黒板に書かれていることをノートに書き写すのが難しい
- 文章を読んでも、内容が理解できない
- 計算や図形の問題が苦手
DCD(発達性協調運動症)
運動能力障害の一つである発達性協調運動障害とは、これまで協調運動の技能を身につけ、使う機会を得てきたにもかかわらず、協調運動をおこなう能力が、得てきた機会に応じて期待されるものより明らかに劣っており、 日常生活に支障をきたしている状態のことです。
前述のように文字の読み書きに困難が生じる場合があるほか、以下のような困りごとが起こる場合があります。
- 文字や絵が濃すぎる、 または薄すぎる
- ボールをうまく投げることができない
- 動きがぎこちない
- 転びやすい
- 鉄棒や跳び箱などの器械運動が苦手
知的障害(知的発達症)などの発達障害の支援について
困りごとの原因が知的障害であっても、また発達障害であっても、相談先は同じです。
知的障害や発達障害がある場合は、以下のような相談先や支援を利用することができます。
症状や特性の状態は一人ひとり異なるため、主治医や関係機関などと相談しながら、その子に合った支援のあり方を見つけてください。
相談先
利用できる支援について知りたいときの最初の相談先としては、以下のような機関があります。
- 保健センター
- 子ども家庭支援センター
- 児童相談所
また、福祉サービスなどの利用できる支援は、自治体により制度や手続きが異なります。
お住まいの自治体のホームページで制度を確認できるほか、自治体の児童福祉関係課や障害者福祉関係課などに問い合わせると、利用できる制度や適切な相談機関を案内してくれます。
特別支援教育
知的障害や発達障害の特徴により、学校において支援の必要性が高い場合は、特別支援教育を受けることも選択肢の一つとなります。
特別支援教育とは、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級において、障害の状態などに応じて、特別の教育課程や少人数の学級編制のもとにおこなわれる指導のことです。
特別支援学校や特別支援学級の特徴は、支援体制が整っており、少人数のクラスで子どものニーズに合わせた指導を受けられることです。
合理的配慮
合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて、社会が工夫や配慮をすることです。
学校における合理的配慮では、以下のような例があります。
- 知的障害のある子どもに対し、抽象的な言葉ではなく、具体的な言葉を使って説明する
- 聴覚過敏のある子どもに対し、別室で集中してテストを受けられるようにする
- 読字障害(ディスレクシア)のある子どもが黒板を書き写すことが難しいため、板書内容をプリントにして渡す
療育(発達支援)
療育(発達支援)とは、障害のある子どもや、その可能性のある子どもが地域で育つときに生じるさまざまな問題を解決していく努力のすべてを指します。
18歳までの子どもが対象で、障害のある子どもの日常生活での支障を減らすために、障害の特徴に応じて個別の支援計画を作成し、支援を進めていきます。
療育(発達支援)の形式には、通って療育(発達支援)を受ける「通所支援」や、入所して療育(発達支援)を受ける「入所支援」などがあります。
通所支援は、以下のような場所で受けることができます。
- 医療機関
- 児童発達支援センター
- 児童発達支援事業所
- 放課後等デイサービス
入所支援を受けられる施設には、福祉サービスを行う「福祉型」と、福祉サービスに加えて治療を行う「医療型」があります。
障害のある子どもへのサポート
LITALICOジュニアは、児童発達支援や放課後等デイサービスを各地で運営しています。
子ども一人ひとりのニーズや特徴に合わせてオーダーメイドで授業内容を作成し、子どもの成長をサポートします。
子どもの発達について相談したい方や療育(発達支援)の利用について興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。
知的障害と発達障害の違いについてまとめ
国際的に使われている診断基準であるDSM-5において知的障害は、発達障害の分類の一つとされています。
知的障害や発達障害の症状や特徴は一人ひとり異なりますが、診断名が分かることで、困りごとの背景や対処法が分かるでしょう。
主治医や関係機関などと相談しながら、子どもに合った支援のあり方を見つけてください。