発達障害のある子どもは、特性により不安を強く感じることがあります。
子どもの癇癪やこだわり行動などは、実は発達障害の特性に由来する不安の現れなのかもしれません。
しかし、どのような状況でどの程度の不安を感じ、不安がどのような行動となって現れるかは子どもにより異なります。
この記事では、子どもが発達障害の特性により不安を強く感じる状態について説明します。
対処法や相談先、受けられる支援も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
子どもが発達障害の特性により不安を強く感じる状態とは?
発達障害のある子どもの特性の現れ方は一人ひとり異なりますが、特定の状況などにおいて不安を感じやすい場合があります。
発達障害のある子どもが不安を感じる場合は、主に以下の2つに分かれるといえます。
- そもそもの特性によって、不安を感じやすい場合
- 特性による困りごとや失敗体験が重なったことで自信を失い、不安を感じるような場合
この記事では、おもに発達障害の特性によってもたらされやすい不安について説明します。
発達障害とは?
発達障害とは、生まれつきの脳機能の偏りなどが原因と考えられ、さまざまな特性がみられる疾患群の総称です。
脳機能の偏りにより、物事の捉え方や行動などにおいて特性がみられます。
特性は多かれ少なかれ誰にでもみられるものですが、特性の程度が日常生活に支障が生じるほど著しい場合は、発達障害と診断されます。
ここでは、発達障害に分類される主な3つの疾患について説明します。
ASD(自閉スペクトラム症)
コミュニケーション能力や社会性における困難、こだわり行動などの特性がみられる疾患です。
言葉の発達が年齢相応に期待されるよりもゆっくりであったり、相手の気持ちを読み取ることが苦手であったり、決まった順序にこだわるなどの特性がみられることがあります。
ADHD(注意欠如多動症)
「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの基本的な特性がみられる疾患です。
集中力がない、物をなくすことが多い、じっとしていられない、思いついたらすぐに行動に移してしまうなどの特性がみられることがあります。
SLD(限局性学習症)
文部科学省は、知的発達に遅れはないが、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」などの基礎的な能力のうちの1つ以上の能力に困難があるため、学習に困難が生じている状態を学習障害としています。
発達障害の特性による不安を感じる場面
発達障害の一つであるASD(自閉スペクトラム症)の特性の一つに、「見通しの立たない状況において、不安を感じやすい」というものがあります。
ASDには「想像力の乏しさ」という特性があるため、ASDのある子どもは経験したことのない状況や場所に置かれると、これから何が起こるのかがわからず混乱してしまうことがあります。
未経験の状況では、誰でも多少の緊張や不安を感じるものです。
しかしASDのある子どもにとっては、発達障害のない人が想像する以上に大きな負担となり、著しい不安や恐怖を感じるとされています。
ASDのもう一つの特性である「こだわり行動」も、同じ行動を繰り返すと見通しを持てるため、安心するという心理に起因していると考えられます。
発達障害のある子どもが不安を感じる場面の例
同じ「ASD」という診断名がおりている場合でも、不安を感じる場面は子どもにより異なります。
例えば、病院を受診する場合が挙げられます。
特に初診の場合は、知らない場所で知らない人と接することとなり、ASDのある子どもは大きな不安を感じるかもしれません。
幼稚園や学校などでの運動会や習い事の発表会などの行事も、いつもの生活パターンにない状況であるため、ASDのある子どもは不安を感じることがあります。
初めての場所に出かけることや、いつもと違う道を通るだけでも不安を感じる子どももいるかもしれません。
発達障害のある子どもが不安を感じた場合の行動
不安を感じた場合にとる行動も、子どもによりさまざまに異なります。
たとえば、ASDの特性である「想像力の乏しさ」により、未経験の状況下では「これからどうなるか」を見通すのが難しいだけでなく、「どうすればよいのか」ということもわからなくなってしまうことがあります。
その結果、以下のような行動をとることがあります。
- 固まって動けなくなる
- 嫌がって泣く
- 癇癪やパニックを起こしてしまう
- 特定のルールや行動にこだわる
- 自傷行為をしてしまう
これらの行動は、発達障害のない人には「困りごと」に見えるかもしれませんが、発達障害のある子どもが不安に適応しようとしておこなう「本人なりの対処行動」である場合もあります。
子どもが発達障害で不安を強く感じる場合の対応方法
発達障害の特性により子どもが不安を強く感じる傾向がある場合には、以下のような対応方法があります。
見通しを伝える
いつもと違う状況になることがわかっている場合は、あらかじめ子どもにそのことを説明しておくことで、子どもの不安をやわらげます。
このとき言葉だけでなく、図やイラスト、写真なども使って説明すると子どもがわかりやすくなります。
ASDのある人の中には、聴覚からの情報よりも、視覚からの情報の方が処理をしやすいという「視覚優位」の特性がある人が多いといわれています。
見通しの伝え方の例
該当する日のスケジュールを図や時系列にして紙に書き出し、いつもと違う予定の部分を、紙の上で示して説明します。
イラストを添えたりすると、子どもがさらにイメージしやすくなるでしょう。
運動会や発表会などは、前の年までの会の映像を学校や知人などから借りることができれば、事前に子どもに見せておきます。
お遊戯やダンスなどがある場合は、家で練習しておくのもよいでしょう。
子どもと一緒に、事前に会場を見ておくのも一つの方法です。
初めての場所に行く場合や違う道を通る場合などには、行く場所の写真や、事前に撮っておいた道の写真などをあらかじめ子どもに見せることも不安の緩和に役立つでしょう。
同時に、「なぜそこに行くのか」「なぜそこを通るのか」という理由も説明します。
理由も説明することで、新しい状況への不安だけでなく「なぜそういう状況になるのか、わけがわからない」という不安も取り除くことができます。
無理強いしないでできるところから取り組む
事前に説明しても子どもの不安が依然として強いような場合には、無理強いしないことも選択肢の一つとなります。
子どもの不安に対処するよりも、不安の原因そのものを取り除いて、子どもが安心して過ごすことを優先することも時には大切です。
場合によっては、不安の原因となっているお出かけを取りやめたり、スケジュールの変更をすることも検討してみてください。
運動会や発表会などは離れたところから見学したり、子どもが参加できるプログラムのみ参加できるように、教員に相談してみることもできます。
普段の生活を安定させる
規則正しい生活を送ることで、子どもの普段の生活を安定させるように心がけます。
普段の生活が安定していると、「時々変化はあっても、自分の世界は基本的には同じだ」「変化が過ぎれば、またいつもの日常に戻れる」と考えることができるようになります。
このことが、変化に対する子どもの対応力を高めることにつながるでしょう。
また、「変化がある場合は、保護者が事前に説明してくれる」という経験を重ねて信頼関係が育まれることも、子どもの心の安定につながります。
発達障害のある子どもが不安を感じやすい場合|利用できる制度について
発達障害のある子どもが不安を感じやすいときは、以下の支援を利用できる場合があります。
合理的配慮
合理的配慮とは、障害のある人が、障害のない人と同じように人権が保障されて社会生活に参加できるよう、障害の特性や困りごとにあわせておこなわれる変更や調整のことです。
前述した対処法の「運動会や発表会などの前年までの映像を借りる」「運動会や発表会を見学する」なども、合理的配慮として対応してほしい旨を学校の教員に相談することができます。
特別支援教育
特別支援教育とは、少人数の学級編制で、障害の状態などに応じた特別の教育課程のもとにおこなわれる指導のことです。
特別支援教育の指導形態には、ほとんどの授業を通常学級で受け、一部の指導を通級指導教室で受ける「通級による指導」や、「特別支援学級」や「特別支援学校」があります。
児童発達支援
児童発達支援とは、主に未就学の障害のある子どもに対し、児童発達支援センターなどの機関において、日常生活の基本的動作の指導や、集団生活に適応するための訓練などを提供する支援を指します。
LITALICOジュニアの児童発達支援
LITALICOジュニアでも、児童福祉法に基づく児童発達支援事業をおこなっています。
子ども一人ひとりの発達段階や特性にあわせて支援計画を策定し、子どもの成長をサポートします。
「気持ちの切り替えが苦手」「こだわりが強い」「集団行動が苦手」などのさまざまな困りごとに対する指導実績があります。
無料オンライン相談もおこなっていますので、児童発達支援の利用に興味がある方はお気軽にお問い合わせください。
発達障害の不安に関する相談先
発達障害がある子どもについて悩みや不安がある場合は、以下の機関に相談することができます。
子ども家庭支援センター
子ども家庭支援センターでは、18歳未満の子どもや子育て家庭に関するあらゆる相談を受けつけています。
市町村保健センター
保健センターには保健師や医師、栄養士などが在籍しており、子どもの健康や発達などに関する相談に応じています。
児童相談所
児童相談所は、18歳未満の子どもに関するさまざまな相談に応じる機関です。
生活全般から発達、教育などの幅広い悩みを相談することができます。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある人や子どもなどへの支援を総合的におこなう、地域の拠点となる機関です。
関係機関とも連携し、発達障害のある人や子ども、その家族などからのさまざまな相談に応じています。
市区町村の相談窓口
市区町村の福祉課などでも、相談を受けつけています。
担当窓口は市区町村により異なるため、お住まいの市区町村の情報を確認してみてください。
まとめ
発達障害に分類される疾患であるASD(自閉スペクトラム症)では、「見通しの立たない状況において、不安を感じやすい」という特性がみられることがあります。
発達障害のある子どもが不安を感じている場合は、この記事で紹介した対処法などを実践してみてください。
また、専門機関に相談してみるのも一つの方法です。
LITALICOジュニアでも、発達障害の特性のある子どもへの支援をおこなっています。
ご興味のある方は、ぜひご利用をご検討ください。
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監修者
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 客員研究員
井上 雅彦
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。