ADHD(注意欠如多動症)とは?特徴や原因、チェックリストをご紹介します
ADHD(注意欠如多動症)の分類
ADHDは、注意欠如多動症とも呼ばれ、話を集中して聞けない、作業が不正確、なくしものが多いなどの「不注意」、体を絶えず動かしたり離席する、おしゃべり、順番を待てないなどの「多動性」「衝動性」の特性がみられる発達障害の一つです。特性のあらわれ方によって多動・衝動性の傾向が強いタイプ、不注意の傾向が強いタイプ、多動・衝動性と不注意が混在しているタイプなど主に3つに分けられ、これらの症状が12歳になる前に出現します。特性の多くは幼い子どもにみられる特徴と区別することが難しいため、幼児期にADHDの診断することは難しく、就学期以降に診断されることが多いといわれています。また、個人差はありますが、年齢と共に多動性が弱まるなど、特性のあらわれ方が変化することもあります。
ADHD(注意欠如多動症)のあるお子さまは、その特性により授業中、集中することが難しかったり、忘れ物が多いなどがあり、叱られることが多くなりがちです。叱られることが増えていくと、自信を失い、追い詰められてしまうということもあるので、お子さまの特性を理解し接することが大切です。
※以前は「注意欠陥・多動性障害」という診断名でしたが、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「注意欠如多動症」という診断名になりました。この記事では以下、ADHD(注意欠如多動症)と記載しています。
ADHD(注意欠如多動症)の3つの種類と症状・特徴について
不注意優勢に存在
「不注意」の特徴が強く現れ、「多動・衝動」の特徴があまり強くないタイプです。授業中に集中し続けることが難しい、忘れ物が多い、外からの刺激などですぐに気がそれてしまうなどの特徴があります。一方で、自分の好きなことについて考えたり取り組んだりしていると、話しかけられても気づかず、周囲の人に「無視をした」と誤解されることもあります。
多動・衝動優勢に存在
「多動性及び衝動性」の特徴が強く現れ、「不注意」の特徴があまり強くないタイプです。動いていないと気分的に落ち着かないだけでなく、無意識のうちに身体が動いてしまう、感情や欲求のコントロールが苦手などの特徴があります。授業中でも立ち歩く、指名されていないのに答えてしまう、などの特徴から、集団生活で落ち着きのなさについて指摘されることも多いです。
混合して存在
「不注意」と「多動性および衝動性」の特徴をともに満たしているタイプです。
最近は、ADHD傾向があるお子さまへの早期療育をおこなう例が増えてきています。早期から介入し療育をおこなうことで、特性自体を治療することは難しいものの、いじめ、不登校、抑うつなど二次的な問題を予防することができると言われています。
ADHD(注意欠如多動症)の原因
人口調査によると子どもの約5%および成人の約2.5%にADHD(注意欠如多動症)の症状があることが示されています。近年の研究によると、ADHD(注意欠如多動症)は「前頭前野」や「大脳辺縁系」などの神経ネットワークに原因がある脳の機能障害で、脳内で神経信号を伝達する神経伝達物質の働きがバランスを崩していることが関係していると考えられています。
前頭葉は脳の前部分にあり、物事を整理整頓したり論理的に考えたりする働きをします。この部位は注意を持続させたり行動などをコントロールしたりします。
ADHD(注意欠如多動症)の人はこうした注意集中や行動制御の機能に何らかの偏りや異常があり、前頭葉がうまく働いていないのではないかと考えられています。
また、男女によって発現率の違いが見られます。男:女の比率は小児期だと2:1、成人期だと1.6:1とされており、女性は男性よりも主に不注意の特徴を示す傾向があります。
こういった特徴を有する要因として遺伝や環境の影響を指摘する研究もありますが、まだはっきりとしたことは分かっていません。元々の素因と過去の環境、現在の環境の影響の相互作用によって症状が生じるという考え方もあります。そのため「育て方が原因」「しつけが悪い」ということではなく、さまざまな要因が影響し合って現在の症状があると理解できるとよいでしょう。
ADHD(注意欠如多動症)のあるお子さまによく見られる困りごとチェックリスト
ADHD(注意欠如多動症)のあるお子さまによく見られる困りごとをご紹介します。
このチェックリストは目安であり、ADHD(注意欠如多動症)の診断を確定するものではありません。
ただ、もし下記のチェックリストの特性や困りごとに当てはまるものが多く、長期にわたって日常生活や学校生活に支障が出ている場合は、相談機関に相談をしてみるのがいいでしょう。
不注意
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なくし物や忘れ物をしやすい
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外からの刺激に反応して注意がそがれやすい
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約束を守るなど日々の活動を忘れてしまうことがたびたびある
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授業中集中し続けることが難しい
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課題または遊びの活動で、注意を持続することが難しいことがたびたびある
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話しかけられたときに聞いていないようにみえることがたびたびある
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指示に従えず、学業や用事などの義務をやり遂げることができないことがたびたびある
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課題や活動を順序立てることが困難なことがたびたびある
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学業や宿題のような精神的努力の継続が必要な課題に従事することをさける、嫌う、またはいやいやおこなうことがたびたびある
多動性・衝動性
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椅子に座っていても手足を動かすなどそわそわする様子がある
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席についていなくてはいけない場面で、席を離れることがたびたびある
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不適切な状況で走り回ったり高いところへ登ることがたびたびある
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静かに遊んだり余暇活動につくことが難しい
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じっとしていない、またはまるでエンジンで動かされるように行動することがたびたびある
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しゃべりすぎることがたびたびある
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質問が終わる前に答えることがたびたびある
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順番を待つことが難しいことがたびたびある
-
他人を妨害し、邪魔することがたびたびある
現れる特性や困りごとは年齢や環境によっても異なるので、サポートもお子さま一人ひとりに合わせておこなうことが大切です。
また、特定の困りごとがあっても、困りごとが困りごとにならない、もしくは強みになるような環境を整えることができるかもしれません。
ここで、発達が気になるお子さん向けの教室「LITALICOジュニア」で大事にしている、「個と環境へのアプローチ」という考え方を紹介します。
【個と環境へのアプローチとは?】
LITALICOジュニアでは、子どもの生きづらさや困りごとは「お子さま」と「環境」の相互作用で生まれるものと考え、この両方へアプローチします。
お子さまへのアプローチとしては、特性や成長ステップにあわせた最適な支援をおこなうために、お子さまの感覚や行動の特徴、獲得スキルなどを専門のスタッフが分析するアセスメントを実施し、お子さまのステップに合わせた学習計画を立てて指導をおこないます。そして、お子さまの「楽しい!」を大切にし、お子さま自身が自発的に「やりたい!」「知りたい!」と思えるように授業を進めていきます。
環境へのアプローチとしては、ご家庭でのお子さまとの関わり方をお伝えしたり、学校と連携し、お子さまの様子を共有し合い課題の優先順位をつけるなどしてお子さまの過ごしやすい環境づくりをしています。さらに、お子さまの特性に合わせてお子さまが「スキルを獲得しやすい」環境に整えて授業をおこなっています。たとえば、不安で落ち着かないお子さまには、授業内容をホワイトボードに貼って見通しをつけるなどの対応をしています。
LITALICOジュニアでは、お子さまの感覚や行動の特徴、獲得スキルなどを専門のスタッフが分析するアセスメントを実施しています。感覚の特徴を知ることで、お子さまへの接し方や環境調整の仕方が分かるため、スムーズに生活するためのサポートがしやすくなります。
ADHD(注意欠如多動症)の治療
ADHDへの治療は大きく分けて「療育(発達支援)」と「薬による治療(薬物療法)」があります。
「療育(発達支援)」では、ADHD(注意欠如多動症)の子どもが過ごしやすい環境の整備(不必要な刺激を減らし、課題や目標に集中しやすい構を作る)をおこなったり、子どもが社会参加するために必要なスキル(集団活動するためのコミュニケーションや自己コントロールするための方法など)を身につけるための支援をおこないます。またペアレントトレーニングと呼ばれる保護者がADHDの子どもへ適切に関われるように対処法を学ぶプログラムもあります。
「薬による治療(薬物療法)」では、脳内の神経伝達物質(ドーパミンやノルアドレナリンなど)の調整をおこなうために処方され、主に注意や衝動制御の作用があります。処方される薬によって効果が出るまでの期間や一日の服薬回数、副作用などが異なってきますので、主治医と相談しながら現在の状況に合わせて処方してもらいましょう。また、基本的には環境の整備などで対処できる場合はそちらを優先し、それだけでは対処が難しく、ADHDの症状によって生じる二次的な問題(対人関係のトラブルや学力不振によって生じる自尊心の低下など)などを防ぐために薬物療法を用いられることが多いです。
ADHD(注意欠如多動症)のあるお子さまとの接し方
ADHD(注意欠如多動症)のあるお子さまは、その特徴から、怒られる機会が多かったり、忘れ物などの失敗を繰り返したりすることで、自分に自信が持てずに、色々な方面で支障をきたしてしまうこともあります。そのため、ADHDのあるお子さまと接する際は以下の点に注意することが必要です。
-
1できないことよりもできることに着目する
ADHD(注意欠如多動症)のお子さまと接する際、できないことの方にどうしても目が行きがちですが、できないところばかり指摘されすぎてしまうと、自信を失ってしまいます。できることの方により着目し、そちらに対して肯定的なフィードバックをすることで、「できた!」という体験が自信となり、次へのやる気につながります。
-
2強みに目を向ける
ADHD(注意欠如多動症)のあるお子さまの中には、自分の好きなことに関しては集中力を発揮する方もたくさんいます。お子さまの強みを発見し、サポートすることが、強みを伸ばしたり、自信を育んだりすることにつながっていきます。
-
3失敗しないための声かけを
衝動的に行動をしてしまいがちなお子さまには、事前に「順番に並びましょう」などと声掛けをしたり、気が散りやすい方には気が散らないように机回りを整理したり、準備物を一緒に確認したりするなど、失敗しないためのサポートをおこなうことが大切です。
-
4動ける時間を設けてメリハリをつける
じっとしなければならない場面では、多動性を押さえようとするのではなく、課題の途中に小休止を入れる、身体を動かせる何らかの役割を持ってもらうなどにより、動ける時間と静かにする時間のメリハリをつけることをおすすめします。
-
5一緒に対策を考える
どのような場面で失敗することが多いかを探り、一緒に対策を考えていきましょう。「事前に確認したら忘れ物しなかった」などの成功体験を積みながら、自分の特性との付き合い方を一緒に探していくことが大切です。
※上記は接し方の一例です。必ずしもすべてのお子さまに該当するとは限りません。
LITALICOジュニアでは、保護者さまがお子さまへの関わり方を学べる「ペアレントトレーニング」を実施しています。子育てのイライラや不安を軽減し、保護者さまもお子さまも楽しくできるヒントがたくさん詰まっている考え方を学ぶプログラムです。
記事まとめ
繰り返しになりますが、ADHD(注意欠如多動症)のお子さまはその特性から「わざと聞いてない」「無視している」「言うことを聞かずにふざけている」など誤解され、その結果として注意や叱責を受けることが多くなります。お子さまの良いところにも注目して、長所を伸ばす関わりが心がけられると良いでしょう。
【参考資料】
- ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?(発達ナビ)
https://h-navi.jp/column/article/97 - ADHD(注意欠如多動症)は遺伝する確率があるの?兄弟、父親、母親との関係は?(LITALICO発達ナビ)
https://h-navi.jp/column/article/128 - 【チェック診断】ADHD(注意欠如・多動症)とは?子どもの症状・特徴と原因、治療・薬について解説(親と子のためのADHD.co.jp)
https://adhd.co.jp/kodomo/about_adhd/ - 日本小児神経学会
https://www.childneuro.jp/modules/general/index.php?content_id=76
*書籍
『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』日本精神神経学会/監修、医学書院/刊
『ICD-10 精神科診断ガイドブック』中根允文, 山内俊雄/監修、中山書店/刊
『イラスト図解 発達障害の子どもの心と行動がわかる本』田中康雄/監修、西東社/刊
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